・・・先方の口から言出させて、大概の見当をつけ、百円と出れば五拾円と叩き伏せてから、先方の様子を見計らって、五円十円と少しずつせり上げ、結局七八拾円のところで折合うのが、まずむかしから世間一般に襲用された手段である。僕もこのつもりで金高を質問した・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・しかれども百年後の今日に至りこの語を襲用するもの続々として出でんか、蕪村の造語はついに字彙中の一隅を占むるの時あらんも測りがたし。英雄の事業時にかくのごときものあり。 蕪村は古文法など知らざりけん、よし知りたりともそれにかかわらざりけん・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・異なっているのは偏によって意味の違いを表示したもので、発音的には同一語にほかならないこと、従って一つの音を表示する基準的な文字があれば、象形的に全然つながりのない語に対しても、同音である限りその文字が襲用せられていること、などは、わたくしは・・・ 和辻哲郎 「露伴先生の思い出」
出典:青空文庫