・・・それは要するに五十歩百歩の差にすぎない」。この私の言葉に対して河上氏はいった、「それはそうだ。だから私は社会問題研究者としてあえて最上の生活にあるとは思わない。私はやはり何者にか申しわけをしながら、自分の仕事に従事しているのだ。……私は元来・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・これを要するに氏の僕に言わんとするところは、第四階級者でなくとも、その階級に同情と理解さえあれば、なんらかの意味において貢献ができるであろうに、それを拒む態度を示すのは、臆病な、安全を庶幾する心がけを暴露するものだということに帰着するようだ・・・ 有島武郎 「片信」
・・・ 待て、我が食通のごときは、これに較ぶれば処女の膳であろう。 要するに、市、町の人は、挙って、手足のない、女の白い胴中を筒切にして食うらしい。 その皮の水鉄砲。小児は争って買競って、手の腥いのを厭いなく、参詣群集の隙を見ては、シ・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・ 要するに、其の色を見せることは、其の人の腕によることで、恰も画家が色を出すのに、大なる手腕を要するが如しだ。 友染の長襦袢は、緋縮緬の長襦袢よりは、これを着て、其の色を発揮させるに於いて、確に容易である。即ち友染は色が混って居るが・・・ 泉鏡花 「白い下地」
・・・の湯というものが、どういうことに思われて居るかと察するに、一は茶の湯というものは、貴族的のもので到底一般社会の遊事にはならぬというのと、一は茶事などというものは、頗る変哲なもの、殊更に形式的なもので、要するに非常識的のものであるとなせる等で・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・ 岡村は笑って、「君の様にそう頭から嬉しがって終えば何んでも面白くなるもんだが、矢代君粽の趣味など嬉しがるのは、要するに時代おくれじゃないか」「ハハハハこりゃ少し恐れ入るな。意外な所で、然も意外な小言を聞いたもんだ。岡村君、時代・・・ 伊藤左千夫 「浜菊」
・・・ 要するに夏目さんは、感覚の鋭敏な人、駄洒落を決して言わぬ人、談話趣味の高級な人、そして上品なウイットの人なのである。我が文壇にはこの方面で独自の人であった。夏目さんには大勢の門下生もあることだが、しかし皆夏目さんの後を継ぐことはできな・・・ 内田魯庵 「温情の裕かな夏目さん」
・・・と称したについてはその内容の意味は種々あろうが、要するに、「文学には常に必ず多少の遊戯分子を伴うゆえに文学ではドウシテも死身になれない」と或る席上で故人自ら明言したのがその有力なる理由の一つであろう。が、文学には果して常に必ず遊戯的分子を伴・・・ 内田魯庵 「二葉亭四迷」
・・・たゞ、自分の理想に生きるということ、正義のために戦わなければならぬということ、そして、要するに、人間は、いかなる職業にあっても、その心がけが、社会のためにつくすという一事に於て、全的生涯が完うされるものだということを感じているのであります。・・・ 小川未明 「机前に空しく過ぐ」
・・・ 私の作品に好意的に触れておられる文章故、いささか気がさしながら引用したのであるが、要するに、これをもって見れば、すくなくとも、大阪的な作品は東京文壇の理解するところとならぬのではあるまいか。 どうせ、文学に対する考え方なぞ、人生に・・・ 織田作之助 「東京文壇に与う」
出典:青空文庫