・・・同じような本を誰彼の処で見出した時、「みんなが流行を追うているんだな」と、あまり自分達に個性がなさすぎるのが悟られて、反動的に、自己憎悪を感じたのでありました。 事実、面白いといわれたので、自分に少しも面白くないものがあります。その・・・ 小川未明 「書を愛して書を持たず」
・・・そして三年後には「自分を見出した」という言い方をもう一度使いますと、流れ流れて南紀の白浜の温泉の宿の客引をしている自分を見出しました。もっともその三年の間、せっせと金を貯めて、その金を持っておおぴらに文子に会いに行こうと思わなかった日は、一・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・そんな見出しの新聞記事を想像するに及んで、苦悩は極まった。 いろいろ思い案じたあげく、今のうちにお君と結婚すれば、たとえ姙娠しているにしてもかまわないわけだと、気がつき、ほっとした。なぜこのことにもっと早く気がつかなかったか、間抜けめと・・・ 織田作之助 「雨」
・・・そしてそれがだんだんはっきりして来るんですが、思いがけなくその男がそこに見出したものはベッドの上にほしいままな裸体を投げ出している男女だったのです。白いシーツのように見えていたのがそれで、静かに立ち騰っている煙は男がベッドで燻らしている葉巻・・・ 梶井基次郎 「ある崖上の感情」
・・・人々荒跡を見廻るうち小舟一艘岩の上に打上げられてなかば砕けしまま残れるを見出しぬ。「誰の舟ぞ」問屋の主人らしき男問う。「源叔父の舟にまぎれなし」若者の一人答えぬ。人々顔見あわして言葉なし。「誰れにてもよし源叔父呼びきたらずや」・・・ 国木田独歩 「源おじ」
・・・自分を完くは満足させてくれなくとも、ともかくも自分の関心せずにおられぬ活きた人生の実践的問題がとりあげられ、巷間の常識ではそのままうち捨てられているのに、ここでは鋭い問いを発し熱心に討究されているのを見出しては、わが身に近く感じずにはいられ・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・客も船頭もこの世でない世界を相手の眼の中から見出したいような眼つきに相互に見えた。 竿はもとよりそこにあったが、客は竿を取出して、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏と言って海へかえしてしまった。・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・激しく男女の労働する火山の裾の地方に、高瀬は自分と妻とを見出した。 塾では更に校舎の建増を始めた。教員の手が足りなくて、翌年の新学年前には広岡理学士が上田から家を挙げて引移って来た。 子安という新教員も、高瀬が東京へ行った序に頼・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・それから二本の白樺の木の下の、寂しい所に、物を言わぬ証拠人として拳銃が二つ棄ててあるのを見出した。拳銃は二つ共、込めただけの弾丸を皆打ってしまってあった。そうして見ると、女房の持っていた拳銃の最後の一弾が気まぐれに相手の体に中ろうと思って、・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・を発見した記事を読んだときにいわゆる武陵桃源の昔話も全くの空想ではないと思ったことであったが、その武陵桃源の手近な一つの標本を自分は今度雨の上高地に見出したようである。 寺田寅彦 「雨の上高地」
出典:青空文庫