・・・な田舎女と結婚していたし、いまさら汐田のその出来事に胸をときめかすような、そんな若やいだ気持を次第にうしないかけていた矢先であったから、汐田のだしぬけな来訪に幾分まごつきはしたが、彼のその訪問の底意を見抜く事を忘れなかった。そんな一少女の出・・・ 太宰治 「列車」
・・・ また一方で、彼の探偵物には人間の心理の鋭い洞察によって事件の真相を見抜く例も沢山ある。例えば毒殺の嫌疑を受けた十六人の女中が一室に監禁され、明日残らず拷問すると威される、そうして一同新調の絹のかたびらを着せられて幽囚の一夜を過すことに・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・誠ありと見抜く男の心を猶も確めん為め女、男に草々の課役をかける。剣の力、槍の力で遂ぐべき程の事柄であるは言うまでもない」クララは吾を透す大いなる眼を翻して第四はと問う。「第四の時期を Druerie と呼ぶ。武夫が君の前に額付いて渝らじと誓・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・一見、愚劣と思われ、誰しも反対すると思われる方策を、政府が強権によって発動させる、という、その技術上の意味を、わたしたち人民は見抜く必要があるのではなかろうか。 宮城のみならず、おそらく、日本じゅうのあらゆる農村で、強制供出案は、うけい・・・ 宮本百合子 「人民戦線への一歩」
・・・ 人格を見抜く力もなく、頭もなく、ちやほやされるままに気位なくあちこちと浮れ廻る娘は、只一人の真友も持ち得ないと同時に、女性に対して無責任、或は破廉恥な挙動をした者は、忽ち、友達仲間から除外されます。 相当な面目を保った異性間には、・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・ トルストイの作品とその生涯との社会的意味は、最近の過去十六七年間に彼の同時代人には見抜くことが不可能であったような生々とした歴史的・階級的特徴を明らかにして、世界文学の発展のために摂取せられたよろこばしい事実を、私共は目撃しているので・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・それらの人々が、大衆の中での活動で身につけて来ている階級の具体的な特徴についての把握、複雑な現実の縺れの間に歴史の帰趨を見抜く力、その積極的な押し進めのためにあり得る人間の力についての洞察によって、今日の現実を観察して描いてゆく。その点でブ・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・人を躾けるやり方についても、小さい不正の度重なる方が、まれに大きい不正を犯すよりは重大である、ということを見抜くのは、やはり算用である。大なるとがはまれであるが、小なるとがは日々に犯されるゆえに、ほっておけば習性になる。だから大きいとがは人・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫