・・・を書いて以来今日までにおいては、諸家の批判があったにかかわらず、他の見方に移ることができないでいる。私はこの心持ちを謙遜な心持ちだとも高慢な心持ちだとも思っていない。私にはどうしてもそうあらねばならぬ当然な心持ちにすぎないと思っている。・・・ 有島武郎 「想片」
・・・べつの見方をすれば、両者の経済的状態の一時的共通に起因しているのである。そうしてさらに詳しくいえば、純粋自然主義はじつに反省の形において他の一方から分化したものであったのである。 かくてこの結合の結果は我々の今日まで見てきたごとくである・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・同じ見方から、「我々近代人は」というのを「我々性急な者共は」と解した方がその人の言わんとするところの内容を比較的正確にかつ容易に享入れ得る場合が少くない。 人は、自分が従来服従し来ったところのものに対して或る反抗を起さねばならぬような境・・・ 石川啄木 「性急な思想」
・・・それ故に外国文学に対してもまた、十分渠らの文学に従う意味を理解しつつもなお、東洋文芸に対する先入の不満が累をなしてこの同じ見方からして、その晩年にあってはかつて随喜したツルゲーネフをも詩人の空想と軽侮し、トルストイの如きは老人の寝言だと嘲っ・・・ 内田魯庵 「二葉亭四迷」
・・・なぜなら、人間の本当の幸福は、そうしたところにあるのでなく、たとえそれが童話であるとしても、そうした、これまでの世の中の見方、考方には、少なからざる誤りがあると信ずるがためです。 たとえ、自分達は、衣食に苦しまず、仕合にその日を送ってい・・・ 小川未明 「童話を書く時の心」
・・・ 生命の法則についての英知があって、かつ現代の新生活の現実と機微とを知っている男女はこの二つの見方を一つの生活に融かして、夫婦道というものを考えばならぬ。 人間が、文化と、精神と霊とを持っているのでなかったら夫婦道というものは初めか・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・古来幾多のすぐれたる賢者たちがその青春において、そうした見方をしたであろうか。ダンテも、ゲーテも、ミケランジェロも、トルストイもそうであった。ストリンドベルヒのような女性嫌悪を装った人にもなおつつみ切れぬものは、女性へのこの種の徳の要請であ・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・まして大乗仏教のような深い見方をすれば、「凡聖逆謗ひとしく廻入すれば衆水海に入りて味一つなるが如し」というような趣きもあるのであって、さまざまの人々がそのうけた精霊の促がすところにしたがい、それぞれの運命のコースを辿りつつ、全体としては広大・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・ 花袋は、独歩の如く、将校はいゝんだが、下士以下は不道徳で、女を堕落させるというような見方はしていない。兵卒を一個の生物的な人間として見た。そして、一個の死に直面した人間が、大きな戦争の動きのなかに病気に苦しみながら死んで行く。そこに、・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・ピカソも、マチスも見方によっては一笑に付されることを実行している。私の、この頃描いた絵は実行でなく申し訳であったと思います。ぼくは長い長い手紙をかきたかったのだ。一分のスキもない手紙など『手紙が仲々出来ない』といったりしたことを千家君は誤解・・・ 太宰治 「虚構の春」
出典:青空文庫