・・・ ただよく愛するものは、ただよく解するものである。源三が懐いているこういう秘密を誰から聞いて知ろうようも無いのであるが、お浪は偶然にも云い中てたのである。しかし源三は我が秘密はあくまでも秘密として保って、お浪との会話をいい程のところに遮・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・と称する者があって、げほうといえば直に世人がどういうものだと解することが出来るほど一般に知られていたのである。内典外典というが如く、げほうは外法で、外道というが如く仏法でない法の義であろうか。何にせよ大変なことで、外法は魔法たること分明だ。・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・私は女の帰った真意を、解することが、できなかった。おのれの淪落の身の上を恥じて、帰ってしまったものとばかり思っていたのである。 いまは、すべてに思い当り、年少のその早合点が、いろいろ複雑に悲しく、けれども、私は、これを、けがらわしい思い・・・ 太宰治 「デカダン抗議」
・・・ 百年二百年或いは三百年前の、謂わばレッテルつきの文豪の仕事ならば、文句もなく三拝九拝し、大いに宣伝これ努めていても、君のすぐ隣にいる作家の作品を、イヒヒヒヒとしか解することが出来ないとは、折角の君の文学の勉強も、疑わしいと言うより他は・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・道誉等、大小の侯伯を集めて茶の会を開きし事は伝記にも見えたる所なれども、これらは奇物名品をつらね、珍味佳肴を供し、華美相競うていたずらに奢侈の風を誇りしに過ぎざるていたらくなれば、未だ以て真誠の茶道を解するものとは称し難く、降って義政公の時・・・ 太宰治 「不審庵」
・・・を作り出すことの喜び」を解する人には現代でもいくらか想像ができそうである。 ついでながら西洋の糸車は「飛び行くオランダ人」のオペラのひと幕で実演されるのを見たことがある。やっぱり西洋の踊りのように軽快で陽気で、日本の糸車のような俳諧はど・・・ 寺田寅彦 「糸車」
・・・しかし少なくも俳句を解する日本人にとっては、この句は非常に肉感的である。われわれの心の皮膚はかなり鋭い冷湿の触感を感じ、われわれの心の鼻はかびや煤の臭気にむせる。そのような官能の刺激を通じて、われわれ祖先以来のあらゆるわびしくさびしい生活の・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・わたしは西洋文学の研究に倦んだ折々、目を支那文学に移し、殊に清初詩家の随筆書牘なぞを読もうとした時、さほどに苦しまずしてその意を解することを得たのは今は既に世になき翰の賚であると言わねばならない。 唖々子が『通鑑綱目』を持出した頃、翰も・・・ 永井荷風 「梅雨晴」
・・・好悪は理窟にはならんのだから、いやとか好きとか云うならそれまでであるが、根拠のない好悪を発表するのを恥じて、理窟もつかぬところに、いたずらな理窟をつけて、弁解するのは、消化がわるいから僕は蛸が嫌だというような口上で、もし好物であったなら、い・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・酒呑が酒を解する如く、筆を執る人が万年筆を解しなければ済まない時期が来るのはもう遠い事ではなかろうと思う。ペリカン丈の経験で万年筆は駄目だという僕が人から笑われるのも間もない事とすれば、僕も笑われない為に、少しは外の万年筆も試してみる必要が・・・ 夏目漱石 「余と万年筆」
出典:青空文庫