・・・所謂古い言葉と今の口語と比べてみても解る。正確に違って来たのは、「なり」「なりけり」と「だ」「である」だけだ。それもまだまだ文章の上では併用されている。音文字が採用されて、それで現すに不便な言葉がみんな淘汰される時が来なくちゃ歌は死なない。・・・ 石川啄木 「一利己主義者と友人との対話」
・・・ ~~~~~~~~~~~~~~~~~ 粗雑ないい方ながら、以上で私のいわんとするところはほぼ解ることと思う。――いや、も一ついい残したことがある。それは、我々の要求する詩は、現在の日本に生活し、現在の日本語を用い、現在の日本を・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・逢魔が時からは朧にもあらずして解る。が、夜の裏木戸は小児心にも遠慮される。……かし本の紙ばかり、三日五日続けて見て立つと、その美しいお嬢さんが、他所から帰ったらしく、背へ来て、手をとって、荒れた寂しい庭を誘って、その祠の扉を開けて、燈明の影・・・ 泉鏡花 「絵本の春」
・・・「解るまい、こりゃおそらく解るまいて。何も儀式を見習わせようためでもなし、別に御馳走を喰わせたいと思いもせずさ。ただうらやましがらせて、情けなく思わせて、おまえが心に泣いている、その顔を見たいばっかりよ。ははは」 口気酒芬を吐きて面・・・ 泉鏡花 「夜行巡査」
・・・ともかくも言ってくれ、後で解る事だから頼む、後生だから。」 魂の請状を取ろうとするのでありますから、その掛引は難かしい、無暗と強いられて篠田は夢現とも弁えず、それじゃそうよ、請取ったと、挨拶があるや否や、小宮山は篠田の許を辞して、一生懸・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・に行われて居ると人は云うであろう、それが大きな間違である、それが茶の湯というものが、世に閑却される所以であろう、いくら茶室があろうが、茶器があろうが、抹茶を立てようが、そんなことで茶趣味の一分たりとも解るものでない、精神的に茶の湯の趣味とい・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・民子もそう思った事はその素振りで解る。ここまで話が迫ると、もうその先を言い出すことは出来ない。話は一寸途切れてしまった。 何と言っても幼い両人は、今罪の神に翻弄せられつつあるのであれど、野菊の様な人だと云った詞についで、その野菊を僕はだ・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・「そうでないさ、東京者にこの趣味なんぞが解るもんか」「田舎者にだって、君が感じてる様な趣味は解らしない。何にしろ君そんなによくば沢山やってくれ給え」「野趣というがえいか、仙味とでも云うか。何んだかこう世俗を離れて極めて自然な感じ・・・ 伊藤左千夫 「浜菊」
・・・余り名文ではないが、淡島軽焼の売れた所以がほぼ解るから、当時の広告文の見本かたがた全文を掲げる。私店けし入軽焼の義は世上一流被為有御座候通疱瘡はしか諸病症いみもの決して無御座候に付享和三亥年はしか流行の節は御用込合順番札にて差上候儀・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・を近づけないで門前払いを喰わすを何とも思わないように噂する人があるが、それは鴎外の一面しか知らない説で、極めてオオプンな、誰に対しても城府を撤して奥底もなく打解ける半面をも持っていたのは私の初対面でも解る。若い人が常に眷いて集まったので推し・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
出典:青空文庫