・・・私の解放運動など、先覚者として一身の名誉のためのものと言って言えないこともなく、そのほうで、どんどん出世しているうちは、面白く、張り合いもございましたが、スパイ説など出て来たんでは、遠からず失脚ですし、とにかく、いやでした。 ――女は、・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ 前衛映画 映画を演劇や文学から解放して映画的な映画の天地を開拓しようとして起こされたいろいろの運動の試みがいわゆる前衛映画である。「アヴァンギァルドとは金にならぬ映画を作る人たちの仲間を言う」と揶揄した人がある。従・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・アルベールの愛の破綻と友情の危機を象徴するために、蓄音機の針をレコードの音溝の損所に追い込んでガーガーと週期的な不快な音を立てさせたり、あるいは、重要でない対話はガラス戸の向こう側でさせて、観客の耳を解放し、そうすることによって想像力を活動・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・すべての感覚が解放され、物の微細な色、匂い、音、味、意味までが、すっかり確実に知覚された。あたりの空気には、死屍のような臭気が充満して、気圧が刻々に嵩まって行った。此所に現象しているものは、確かに何かの凶兆である。確かに今、何事かの非常が起・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・ 焙られるような苦熱からは解放されたが、見当のつかない小僧は、彼に大きな衝撃を与えた。それでいて、その小僧っ子の見てい、感じてい、思ってい、言う言葉が、 彼は車室を見廻した。人は稀であった。彼の後から跟いて入って来た者もなかった・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・或は他の例を以てするならば元来変態心理と正常な心理とは連続的でありますから人類は須く瘋癲病院を解放するか或はみんな瘋癲病院に入らなければいけないと斯うなるのであります。この変てこな議論が一見菜食にだけ適用するように思われるのはそれは思う人が・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・著者が十二年間の獄中生活から解放されてから、『敗北の文学』『人民の文学』が出版された。著者が序文でいっているように「敗北の文学」は一九二九年に二十三歳でかかれたものであり、『レーニン主義文学闘争への道』に収められていた。『人民の文学』はその・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・そこで山椒大夫もことごとく奴婢を解放して、給料を払うことにした。大夫が家では一時それを大きい損失のように思ったが、このときから農作も工匠の業も前に増して盛んになって、一族はいよいよ富み栄えた。国守の恩人曇猛律師は僧都にせられ、国守の姉をいた・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・なぜなら、それらの人々は感覚と云う言葉について不分明であったか若くは感覚について夫々の独断的解釈を解放することが不可能であったか、或いは私自身の感覚観がより独断的なものであったかのいずれかにちがいなかったからである。だが、今の所、「分らない・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・といっているごとく、彼の体験より出たものであるが、その中で最も目につくのは、伝統や因襲からの解放である。人事については家柄に頼らず、一々の人の器用忠節を見きわめて任用すべきことを力説している。戦争については、吉日を選び、方角を考えて時日を移・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫