・・・中には薄々感づいて沼南の口占を引いて見たものもあったが、その日になっても何とも沙汰がないので、一日社務に服して家へ帰ると、留守宅に社は解散したから明日から出社に及ばないという葉書が届いているんだから呆気に取られてしまった。 いやしくも沼・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・過去の文化団体が解散して、新しい文化団体が大阪にも生れかけているが、官僚たる知事を会長にいただくような文化団体がいくつも生れても、非文化的な仕事しか出来ぬであろう。どこを見ても、苦々しいこと許りだ。・・・ 織田作之助 「終戦前後」
・・・ 雑誌社は罹災し、その上、社の重役の間に資本の事でごたごたが起ったとやらで、社は解散になり、夫はたちまち失業者という事になりましたが、しかし、永年雑誌社に勤めて、その方面で知合いのお方たちがたくさんございますので、そのうちの有力らしいお・・・ 太宰治 「おさん」
・・・海賊クラブは一日きりで解散だ。そのかわり、――」立ちあがって、つかつか太宰のほうへ歩み寄り、「ばけもの!」 太宰は右の頬を殴られた。平手で音高く殴られた。太宰は瞬間まったくの小児のような泣きべそを掻いたが、すぐ、どす黒い唇を引きしめて、・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・よし。解散」 そう言って、その若い中尉は壇から降りて眼鏡をはずし、歩きながらぽたぽた涙を落しました。厳粛とは、あのような感じを言うのでしょうか。私はつっ立ったまま、あたりがもやもやと暗くなり、どこからともなく、つめたい風が吹いて来て、そ・・・ 太宰治 「トカトントン」
・・・あの身辺の者たちは、駅の前で解散になって、それから朝食という事になるのですよ。あ、ちょっとここで待っていて下さい。弁当をもらって来ますからね。先生のぶんも貰って来ます。待っていて下さい。」と言って、走りかけ、また引返し、「いいですか。ここに・・・ 太宰治 「未帰還の友に」
・・・ こう云ったからといって私は二科会や美術院の解散をすすめるというような大それた考えを持ち出す訳でも何でもない。ただ、学芸にたずさわる団体は時々何かしらかなり根本的な革新を企てて風通しをよくし、黴の生えないようにする必要があるという至極平・・・ 寺田寅彦 「二科展院展急行瞥見記」
・・・トリオやカルテットの仲間がよくできては解散し、解散してはまた別の組ができるのであるが、事情を聞いてみると皆仲間の間の個性の融和がつきにくいのに帰因するようである。もっともこれは楽器の音色が合わないのではないが、これも畢竟楽器を通して演奏を色・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・お絹はおひろを、宗匠の家へ入れるには、相当条件をつけなくてはならないと考えていたが、それよりもそうなれば、自分独りでこの家を持ち続けてゆくか、解散するか、二つのうち一つを択ばなければならない破滅になっていた。 今朝も珍らしく早く起きたお・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・これを筆にするも不祥ながら、億万一にも我日本国民が外敵に逢うて、時勢を見計らい手際好く自から解散するがごときあらば、これを何とか言わん。然り而して幕府解散の始末は内国の事に相違なしといえども、自から一例を作りたるものというべし。 然りと・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
出典:青空文庫