・・・しかし、だんだん考えてみると、相手の身勝手に気がつき、ただこっちばかりが悪いのではないのが確信せられて来るのだが、いちど言い負けたくせに、またしつこく戦闘開始するのも陰惨だし、それに私には言い争いは殴り合いと同じくらいにいつまでも不快な憎し・・・ 太宰治 「桜桃」
・・・私は言い争いは好まない。「縁談などの時には、たいてい自分の地位やら財産やらをほのめかしたがるものらしいが、小坂のお父さんは、そんな事は一言もおっしゃらなかった。ただ、君を信じる、と言っていた。」「武士だからな。」大隅君は軽く受流した。「・・・ 太宰治 「佳日」
・・・とでもいうような妙な言葉をつかって、三人の紋附の芸者が大いに言い争いをはじめた。 しかし、私の思いは、ただ一点に向って凝結されていたのである。炬燵の上にはお料理のお膳が載せられてある。そのお膳の一隅に、雀焼きの皿がある。私はその雀焼きが・・・ 太宰治 「チャンス」
・・・母は優しく、にぎやかな、いい人ですが、叔父さんの事になると、時々、父と言い争いを致します。叔父さんは、私の家の悪魔です。岩見先生から、叮嚀なお手紙をもらってから、二三日後に父と母は、とうとう、ひどい言い争いを致しました。夕ごはんの時、父は、・・・ 太宰治 「千代女」
・・・ただ、――ゆうべ、一円五十銭のことで、三時間も家人と言い争いいたしました。残念でなりません。 月 日。 夜、ひとりで便所へ行けない。うしろに、あたまの小さい、白ゆかたを着た細長い十五六の男の児が立っている。いまの私にとって、うし・・・ 太宰治 「悶悶日記」
出典:青空文庫