・・・ 何も、雀に託けて身代の伸びない愚痴を言うのではない。また……別に雀の数の多くなる事ばかりを望むのではないのであるが、春に、秋に、現に目に見えて五、六羽ずつは親の連れて来る子の殖えるのが分っているから、いつも同じほどの数なのは、何処へ行・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・圃の中からは一番最初の歌の声が、「何だネお近さん、源三さんに託けて遊んでサ。わたしやお前はお浪さんの世話を焼かずと用さえすればいいのだあネ。サアこっちへ来てもっとお採りよ。」と少し叱り気味で云うと、「ハイ、ハイ、ご道理さまで。」・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・何かまた御用がありましたら、言付けてやって下さい」 こう言って、看護婦なぞの往ったり来たりする庭の向うの方から一人の男を連れて来た。新たに医学校を卒業したばかりかと思われるような若者であった。蜂谷はその初々しく含羞んだような若者をおげん・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
出典:青空文庫