・・・――おれはそう思っていたから、天下を計る心なぞは、微塵も貯えてはいなかった。」「しかしあの頃は毎夜のように、中御門高倉の大納言様へ、御通いなすったではありませんか?」 わたしは御不用意を責めるように、俊寛様の御顔を眺めました、ほんと・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・のためを計るべきものであろうか。しかも、林右衛門の「家」を憂えるのは、杞憂と云えば杞憂である。彼はその杞憂のために、自分を押込め隠居にしようとした。あるいはその物々しい忠義呼わりの後に、あわよくば、家を横領しようとする野心でもあるのかも知れ・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・それゆえこの農場も、諸君全体の共有にして、諸君全体がこの土地に責任を感じ、助け合って、その生産を計るよう仕向けていってもらいたいと願うのです。 単に利害勘定からいっても、私の父がこの土地に投入した資金と、その後の維持、改良、納税のために・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・公民たるこっちとらが社会の安全を謀るか、それとも構わずに打ち遣って置くかだ。」 こんな風な事をもう少ししゃべった。そして物を言うと、胸が軽くなるように感じた。「実に己は義務を果すのだ」と腹の内で思った。始てそこに気が附いたというよう・・・ 著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外 「罪人」
・・・僕は人の手に作られた石の地蔵に、かしこくも自在の力ましますし、観世音に無量無辺の福徳ましまして、その功力測るべからずと信ずるのである。乃至一草一木の裡、あるいは鬼神力宿り、あるいは観音力宿る。必ずしも白蓮に観音立ち給い、必ずしも紫陽花に鬼神・・・ 泉鏡花 「おばけずきのいわれ少々と処女作」
・・・遍的なものはない、大人も小児も賢者も智者も苟も病気ならざる限り如何なる人と雖も、其興味を頒つことが出来る、此最も普遍的な食事を経とし、それに附加せる各趣味を緯とし、依て以て家庭を統一し社会に和合の道を計るは、真に神の命令と云ってもよいのであ・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・時間から計ると、前夜私の下宿へ来られて帰ると直ぐ認めて投郵したらしいので、文面は記憶していないが、その意味は、私のペン・ネエムは知っていても本名は知らなかったので失礼した、アトで偶っと気がついて取敢えずお詫びに上ったがお留守で残念をした、ド・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・して立派に職業たらしむるだけの報酬を文人に与え衣食に安心して其道に専らなるを得せしめ、文人をして社会の継子たるヒガミ根性を抱かしめず、堂々として其思想を忌憚なく発露するを得せしめて後初めて文学の発達を計る事が出来る。文人が社会を茶にしたり呪・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・ 神イエスキリストをもて人の隠微たることを鞫き給わん日に於てである、其日に於て我等は人を議するが如くに議せられ、人を量るが如くに量らるるのである、其日に於て矜恤ある者は矜恤を以て審判かれ、残酷無慈悲なる者は容赦なく審判かるるのである、「我等・・・ 内村鑑三 「聖書の読方」
・・・今の教育は多くの生徒を一教場の内に集めて、与えられたる教科を教うるようであるが、それでは各個人に就て深い注意を与えて各の個性の開発伸長を計ることは誠に困難な事だ。 然しそれも教師の心得次第では全く出来ぬ事ではない。ここにして思えば昔の漢・・・ 小川未明 「人間性の深奥に立って」
出典:青空文庫