・・・ただ身長を計る時、髪の毛が邪魔になるので検査官が顔をしかめただけであった。 身体検査が済んで最後に徴兵官の前へ行くと、徴兵官は私が学校をやめた理由をきいた。病気したからだと私は答えたが、満更嘘を言ったわけではない。私は学校にいた時呼吸器・・・ 織田作之助 「髪」
・・・日蔭者自殺を図るなどと同情のある書き方だった。柳吉は葬式があるからと逃げて行き、それきり戻って来なかった。種吉が梅田へ訊ねに行くと、そこにもいないらしかった。起きられるようになって店へ出ると、客が慰めてくれて、よく流行った。妾になれと客はさ・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・あらず、いかで自殺なる二字をもってこの二人の怪しき挙動の秘密を解き得べきぞ、貴嬢がいわゆる人とは自ら生きんことを計り自ら死なんことを謀る動物なるべし、この二つの一つを出でざる動物なるべし。 間もなく振動は全くやみぬ。われら急に内に入りて・・・ 国木田独歩 「おとずれ」
・・・実に怒る者は知る可し、笑う者は測るべからず、である。求むる有るものは弱し、恐るるに足らず、求むる無き者は強し、之を如何ともする能わず、である。不可解は恐怖になり、恐怖は遁逃を思わしめるに至った。で、何も責め立てられるでも無く、強請されるでも・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・ 私は必しも強いて死を急ぐ者ではない、生きられるだけは生きて、内には生を楽しみ、生を味わい、外には世益を図るのが当然だと思う、左りとて又た苟くも生を貪らんとする心もない、病死と横死と刑死とを問わず、死すべきの時一たび来らば、十分の安心と・・・ 幸徳秋水 「死生」
五月が来た。測候所の技手なぞをして居るものは誰しも同じ思であろうが、殊に自分はこの五月を堪えがたく思う。其日々々の勤務――気圧を調べるとか、風力を計るとか、雲形を観察するとか、または東京の気象台へ宛てて報告を作るとか、そんな仕事に追わ・・・ 島崎藤村 「朝飯」
・・・縄に石鹸を塗りつけるほどに、細心に安楽の往生を図ることについては、私も至極賛成であって、甥の医学生の言に依っても、縊死は、この五年間の日本に於いて八十七パアセント大丈夫であって、しかもそのうえ、ほとんど無苦痛なそうではないか。いちどは薬品で・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・ぬけぬけ白状するということは、それは、かえって読者に甘えている所以だし、私の罪を、少しでも軽くしようと計る卑劣な精神かも知れぬし、私は黙って怺えて、神のきびしい裁きを待たなければならぬ。私が、悪いのだ。持っている悪徳のすべてを、さらけ出した・・・ 太宰治 「善蔵を思う」
・・・例えばある牧場の面積を測る事、他所のと比較する事などを示す。寺塔を指してその高さ、その影の長さ、太陽の高度に注意を促す。こうすれば、言葉と白墨の線とによって、大きさや角度や三角函数などの概念を注ぎ込むよりも遥かに早く確実に、おまけに面白くこ・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・ 先年水温を測る時の目じるしに、池の中のところどころに立てておいた竹ざおが雪の薄くつもった氷の上に頭を出している場合に、さおの北側へ妙な扇形の模様ができる事があった。これもおもしろいものである。これに関してはかつて気象集誌に簡単な記事を・・・ 寺田寅彦 「池」
出典:青空文庫