・・・お前は前途有望だから、残って部下の訓練に精を出してくれなくちゃ困ると、まあ然ういう命令なんだ。 秋山大尉は残念でならねえ。○○師団のところへ掛合行きも行った。五度も行って縋った。○○師団長も終に怒った。軍隊の命令は、総て、天皇陛下のお言・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・何も彼も時世時節ならば是非もないというような川柳式のあきらめが、遺伝的に彼の精神を訓練さしていたからである。身過ぎ世過ぎならば洋服も着よう。生れ落ちてから畳の上に両足を折曲げて育った揉れた身体にも、当節の流行とあれば、直立した国の人たちの着・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・特務曹長「閣下、何とぞその訓練をいただきたくあります。」大将「ふん。それはもちろんよろしい。いいか。では、集れっ。(総ション。右ぃ習え。直れっ。番号。」兵士「一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、十一、十二、」・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・ なぜならば、ギャラップの権威を失墜させ、日本はじめ世界の大資本新聞をとまどいさせて、こんどの選挙にトルーマンが当選したのはアメリカの正直な男女の市民が、身につけているアメリカの民主主義社会生活の訓練と、働く市民としての生活事実に立脚し・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・ 日本には、社会生活のほんとの考えかたが民主的に訓練されていないからこそ、抽象論が多いのです。アルバイトしている男女学生の生活は、経済安定本部の抽象性の修正者です。日本のわたしたちは、考えるということを禁じられて来たから、きょうの混乱が・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
・・・日本の看護婦は、その人々の気立てによって、親切でやさしい人も少くないけれども、一般として、訓練が不足しているということは定評でした。ですから、昨今は、日本の看護婦の能力の水準を国際的な高さにまでひき上げるための規則もやかましくなったわけでし・・・ 宮本百合子 「生きるための協力者」
・・・ 河合栄治郎氏が余程以前アメリカに留学しておられた時分、友人であった一人のロシア生れの女性が、非常によく両性の友人としての交際に訓練されていて、そのために氏は多くのことを学び、男と女との間に友情がまっとうされるためには守るべきいろいろの・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・真理はどこかになければならぬ筈にもかかわらず、争いだけが真理の相貌を呈しているという解きがたい謎の中で、訓練をもった暴力が、ただその訓練のために輝きを放って白熱している。「いったい、それは、眼にするすべてが幽霊だということか。――手に触・・・ 横光利一 「微笑」
・・・この不足のゆえに公共生活の訓練が不充分であり、従ってあらゆる都市の経営が根柢を欠いている。日本人はまだ都市の公共性を理解しない、これが著者の嗟嘆の一つである。しかしこのことは否定の否定が実現せられ得るためにまず第一の否定が明白に行なわれねば・・・ 和辻哲郎 「『青丘雑記』を読む」
・・・しかるに幼少のころから、他人の感情を害すまい、他人の誤解を受けまいというふうな用心によって、卒直な感情の表出を統制するように訓練されて来たとなると、右のような態度そのものが、何となく浅はかなような、奥ゆかしさを欠いたものとして感ぜられるよう・・・ 和辻哲郎 「藤村の個性」
出典:青空文庫