・・・任意の一点と思っても、しかし、はじめに設定した任意の一点は私の文学の構図を決定してしまうことになりがちだ。その一点をさけて、線を引くことが出来なくなる。私は私の任意の一点を模倣していたのだ。 私は非常な人生浪費者だ。私の浪費癖は、もうい・・・ 織田作之助 「私の文学」
・・・ 発声映画 無声映画がようやく発達して、演技や見世物の代弁の地位を脱却し、固有の領域を設定しかけたときに、突然発声映画の器械が市場に現われた。それがためにようやく「雄弁」になりかけた無声映画は突然「おし」にされてしま・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・枢のどこか前とはちがった部分のちがった活動がスタートを切って、今までとはまた少しちがった場所にちがった化学作用が起こり始め、そうしてまた前とはちがった化学物質が生成されたり、ちがったイオン濃度の分配が設定されたりする。それが今までに残存して・・・ 寺田寅彦 「映画と生理」
・・・ 実験としての文学と科学 たとえば勢力不滅の方則が設定されるまでに、この問題に関して行なわれた実験的研究の数はおびただしいものであろう。たとえば大砲の砲腔をくり抜くときに熱を生ずることから熱と器械的のエネルギーとの関・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・金相学上の顕微鏡写真帳も、そういうスケールを作るための素材の堆積であるとも言われよう、もし、あの複雑な模様を調和分析にかけた上で、これにさらに統計的分析を加えれば、系統的な分類に基づくスケールを設定することも、少なくも原理的には可能である。・・・ 寺田寅彦 「感覚と科学」
・・・従ってレコードは設定されず、設定されないレコードは「破る」こともできない、破れないレコードはいわゆるレコードではないのである。たとえば帽子の代わりにキャベツをかぶって銀座を散歩した男があるとすれば、これは確かにオリジナルな意匠としての記録に・・・ 寺田寅彦 「記録狂時代」
・・・今日の気象学においていわゆる気象要素と称するものはこれに反して物理学の基礎の上に設定されたるものにして、これらを材料とせる予報は純然たる物理学的の予報に外ならず。従って物理学上の予報につきて感ぜらるる困難もまた同時に随伴し、ことに条件の多数・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・ 私は科学の進歩に究極があり、学説に絶対唯一のものが有限な将来に設定されようとは信じ得ないものの一人である。それで無終無限の道程をたどり行く旅人として見た時にプトレミーもコペルニクスもガリレーもニュートンも今のアインシュタインも結局はた・・・ 寺田寅彦 「相対性原理側面観」
・・・しかし日本では濃尾震災の刺戟によって設立された震災予防調査会における諸学者の熱心な研究によって、日本に相当した耐震建築法が設定され、それが関東震災の体験によって更に一層の進歩を遂げた。その結果として得られた規準に従って作られた家は耐震的であ・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・季題の設定はこの必要に応ずるものである。季題のない発句はまれにはあるとしてもそれは除外例である。二条良基は連歌の句々の推移のありさまを浮世の盛衰にたとえ、また四季の運行に比べている。これは気候変化の諸相のきわめて複雑多様な日本の国土にあって・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
出典:青空文庫