・・・最も驚くべきは『新声』とか何々文壇とかいうような青年寄書雑誌をすらわざわざ購読して、中学を卒業したかそこらの無名の青年の文章まで一々批点を加えたり評語を施こしたりして細さに味わった。丁度植物学者が路傍の雑草にまで興味を持って精しく研究すると・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・ということがあって、今日の光景ではたとえ徳川の江戸であったにしろ、この評語を適当と考えられる筋もある。このようなわけで東京はかならず武蔵野から抹殺せねばならぬ。 しかしその市の尽くる処、すなわち町外ずれはかならず抹殺してはならぬ。僕が考・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
・・・自分のそんな世俗の評語が、芸術家としての相手の誇りを傷けはせぬかと、案じられた。「芸術の制作衝動と、」すこしとぎれた。あとの言葉を内心ひそかにあれこれと組み直し、やっと整理して、さいごにそれをもう一度、そっと口の中で復誦してみて、それから言・・・ 太宰治 「花燭」
・・・』という篇中のキイノートをなす一節がそのままうつして以てこの一篇の評語とすることが出来ると思います。ほのかにもあわれなる真実の蛍光を発するを喜びます。恐らく真実というものは、こういう風にしか語れないものでしょうからね。病床の作者の自愛を祈る・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・惆悵す 東欄一樹の雪人生看得幾清明 人生 看るを得るは幾清明ぞ〕 何如璋は明治の儒者文人の間には重んぜられた人であったと見え、その頃刊行せられた日本人の詩文集にして何氏の題字や序または評語を載せないものは殆どない。 わた・・・ 永井荷風 「十九の秋」
・・・当時私は私の作物をわるく評したものさえ、自分の担任している文芸欄へ載せたくらいですから、彼らのいわゆる同人なるものが、一度に雪嶺さんに対する評語が気に入らないと云って怒ったのを、驚ろきもしたし、また変にも感じました。失礼ながら時代後れだとも・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
出典:青空文庫