・・・ そこで、彼等は、早速評議を開いて、善後策を講じる事になった。善後策と云っても、勿論一つしかない。――それは、煙管の地金を全然変更して、坊主共の欲しがらないようなものにする事である。が、その地金を何にするかと云う問題になると、岩田と上木・・・ 芥川竜之介 「煙管」
・・・ この別荘の中でも評議が初まった。レリヤが、「クサカはどうしましょうね」といった。この娘は両手で膝を擁いて悲しげに点滴の落ちている窓の外を見ているのだ。 母は娘の顔を見て、「レリヤや。何だってそんな行儀の悪い腰の掛けようをして居るの・・・ 著:アンドレーエフレオニード・ニコラーエヴィチ 訳:森鴎外 「犬」
・・・ 茶店の縁に腰を掛けて、渋茶を飲みながら評議をした。……春日野の新道一条、勿論不可い。湯の尾峠にかかる山越え、それも覚束ない。ただ道は最も奥で、山は就中深いが、栃木峠から中の河内は越せそうである。それには一週間ばかり以来、郵便物が通ずる・・・ 泉鏡花 「栃の実」
・・・ 深田の方でも娘が意外の未練に引かされて、今一度親類の者を迎えにやろうかとの評議があったけれど、女親なる人がとても駄目だからと言い切って、話はいよいよ離別と決定してしまった。 上総は春が早い。人の見る所にも見ない所にも梅は盛りである・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・ ある年の十二月末つ方、年は迫れども童はいつも気楽なる風の子、十三歳を頭に、九ツまでくらいが七八人、砂山の麓に集まりて何事をか評議まちまち、立てるもあり、砂に肱を埋めて頬杖つけるもあり。坐れるもあり。この時日は西に入りぬ。 評議の事・・・ 国木田独歩 「たき火」
・・・しかしそれに世界を漫遊させる程、おうような評議会を持っている銀行は、先ずウィインにも無い。 * * * 文士珈琲店の客は皆知り合いである。その中に折々来る貴族が二人あった。それが来るの・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・この論文が評議会を通過したことを告げたのは、ソリスベリー卿であった。「この間評議会で君の破れ徳利が出たよ」と云ったそうである。これが音響に関するレーリーの研究の序幕となったのである。彼が音響の問題に触れるようになった動機は、ある先生から是非・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・ 時間や何かのことが、三人のあいだに評議された。「とにかく肚がすいた。何か食べようよ」私はこの辺で漁れる鯛のうまさなどを想像しながら言った。 私たちは松の老木が枝を蔓らせている遊園地を、そこここ捜してあるいた。そしてついに大きな・・・ 徳田秋声 「蒼白い月」
・・・いよいよ狐退治の評議が開かれる。 喜助は、唐辛でえぶせば、奴さん、我慢が出来ずにこんこん云いながら出て来る。出て来た処を取ッちめるがいいと云う。田崎は万一逃げられると残念だから、穴の口元へ罠か其れでなくば火薬を仕掛けろ。ところが、鳶の清・・・ 永井荷風 「狐」
・・・旅館に落ち合って、あすこにしよう、ここにしようと評議をしている時に、君はしきりに食い物の話を持ち出した。中華亭とはどう書いたかねと余に聞いた事を覚えている。神田川では、満洲へ旅行した話やら、露西亜人に捕まって牢へぶち込まれた話をしていた。そ・・・ 夏目漱石 「長谷川君と余」
出典:青空文庫