・・・我輩は之を婦人の正当防禦と認め、其気力の慥かならんことを勧告する者なり。記者は前節婦人七去の条に、婬乱なれば去ると記し、婦人が不品行を犯せば其罪直に放逐と宣告しながら、今こゝには打て替り、男子が同一様の罪を犯すときは、婦人は之を怒りもせず怨・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・どの女でも若い盛りが過ぎて一度平静になった後に、もうほどなく老が襲って来そうだと思って、今のうちにもう一度若い感じを味ってみたいと企てる、ちょいとした浮気の発動が、この女の上にもめぐって来ているのだと認めたのである。あの手紙にはこの方面の事・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・死も生も認めぬ己が強いて今までを生といって、お前を死と呼ばねばならぬはずがない。お前は僅か一秒の中に生涯を籠めて見せてくれた。そのお前の不思議な威力に己の身を任せてしまって、今までの影のような生涯を忘れてしまおう。思えばこう感じるのも死にか・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・ここにおいてか芭蕉は無比無類の俳人として認められ、また一人のこれに匹敵する者あるを見ざるの有様なりき。芭蕉は実に敵手なきか。曰く、否。 芭蕉が創造の功は俳諧史上特筆すべきものたること論を竢たず。この点において何人かよくこれに凌駕せん。芭・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・「報告、きょうあけがた、セピラの峠の上に敵艦の碇泊を認めましたので、本艦隊は直ちに出動、撃沈いたしました。わが軍死者なし。報告終りっ。」 駆逐艦隊はもうあんまりうれしくて、熱い涙をぼろぼろ雪の上にこぼしました。 烏の大監督も、灰・・・ 宮沢賢治 「烏の北斗七星」
・・・その無能力者を、刑法では、そう認めず、処罰にあたっては、忽ち同一の主婦が能力者として扱われるという矛盾は、残酷という以上ではないだろうか。日本の民法はしっかりと改正されなければならない。 内縁関係、未亡人の生きかたに絡む様々の苦しい絆は・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・しかるに上で一段下がった扱いをしたので、家中のものの阿部家侮蔑の念が公に認められた形になった。権兵衛兄弟は次第に傍輩にうとんぜられて、怏々として日を送った。 寛永十九年三月十七日になった。先代の殿様の一週忌である。霊屋のそばにはまだ妙解・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・ ――いかなるものと雖も、わが国の現実は、資本主義であると云う事実を認めねばならぬ。と。 此の一大事実を認めた以上は、われわれはいかに優れたコンミニストと雖も、資本主義と云う社会を、敵にこそすれ、敵としたるがごとくしかく有力な社・・・ 横光利一 「新感覚派とコンミニズム文学」
・・・けれども苦しいからといってこの事実を認めないわけには行きません。私よりも聡明な人は私よりももっとよくこの事実を呑み込んでいると思います。自分の小ささを知らない青年はとても大きく成長する事はできますまい。 しかしこの事実の認識はただ「愚痴・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫