・・・俺たちはこの友人の死に値いするだけのりっぱな芸術を生み出すことを誓う。一同 誓う。花田 俺たちは力を協せて、九頭竜という悪ブローカーおよび堂脇という似而非美術保護者の金嚢から能うかぎりの罰金を支払わせることを誓う。一同 誓・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・ かかりしとき医学士は、誓うがごとく、深重厳粛たる音調もて、「夫人、責任を負って手術します」 ときに高峰の風采は一種神聖にして犯すべからざる異様のものにてありしなり。「どうぞ」と一言答えたる、夫人が蒼白なる両の頬に刷けるがご・・・ 泉鏡花 「外科室」
・・・ 誓えとならば誓うべし。「どうぞ、早く、よくなって、何にも、ほかに申しません。」 ミリヤアドは目を塞ぎぬ。また一しきり、また一しきり、刻むがごとき戸外の風。 予はあわただしく高津を呼びぬ。二人が掌左右より、ミリヤアドの胸おさ・・・ 泉鏡花 「誓之巻」
・・・恋以上のもののためには恋をも供えものとすることを互いに誓うことは恋をさらに高めることである。 肉体的耽溺を二人して避けるというようなことも、このより高きものによって慎しみ深くあろうとする努力である。道徳的、霊魂的向上はこうして恋愛のテー・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・ と、男は言葉に力を入れて、堅く堅く誓うように答えた。 やがて男は元気づいて出て行った。施与ということは妙なもので、施された人も幸福ではあろうが、施した当人の方は尚更心嬉しい。自分は饑えた人を捉えて、説法を聞かせたとも気付かなかった・・・ 島崎藤村 「朝飯」
・・・深く、けわしく、よろめいた。誓う。あなたのためには身を粉にして努める。生きてゆくから、叱らないで下さい。けれどもそれだけのことであった。語らざれば、うれい無きに似たりとか。その二人の女のうち笹眉をひそめて笑う小柄のひとに、千万の思いをこめて・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・キリストも、いっさい誓うな、と言っている。明日の事を思うな、とも言っている。実に、自由思想家の大先輩ではないか。狐には穴あり、鳥には巣あり、されど人の子には枕するところ無し、とはまた、自由思想家の嘆きといっていいだろう。一日も安住を許されな・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・――一切誓うな。幸福とは? 審判する勿れ。ナポリを見てから死ね! 等々。仲間はかならず二十代の美青年たるべきこと。一芸に於いて秀抜の技倆を有すること。The Yellow Book の故智にならい、ビアズレイに匹敵する天才画家を見つけ、これ・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・水臭いな、親爺は親爺、おれはおれさ、ザマちゃんお前ひとりを死なせないぜ、なぞという馬鹿な事を言って、更に更に風間とその一党に対して忠誠を誓うのである。 風間は真面目な顔をして勝治の家庭にまで乗り込んで来る。頗る礼儀正しい。目当は節子だ。・・・ 太宰治 「花火」
・・・武夫が君の前に額付いて渝らじと誓う如く男、女の膝下に跪ずき手を合せて女の手の間に置く。女かたの如く愛の式を返して男に接吻する」クララ遠き代の人に語る如き声にて君が恋は何れの期ぞと問う。思う人の接吻さえ得なばとクララの方に顔を寄せる。クララ頬・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
出典:青空文庫