・・・燕の夫婦が一つがい何か頻りと語らいつつ苗代の上を飛び廻っている。かぎろいの春の光、見るから暖かき田圃のおちこち、二人三人組をなして耕すもの幾組、麦冊をきるもの菜種に肥を注ぐもの、田園ようやく多事の時である。近き畑の桃の花、垣根の端の梨の花、・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・村の人々は、たがいに語らいました。「牛女が、こうもりになってきて、子供の身の上を守るんだ。」と、そのやさしい、情の深い、心根を哀れに思ったのであります。 また、つぎの、つぎの年も、夏になると、一ぴきの大きなこうもりが、多くのこうもり・・・ 小川未明 「牛女」
・・・ それから、二人は、小屋の中でむつまじく語らいました。やがて、だんだん日暮れ近くなったのであります。「お父さん、また、雪がちらちら降ってきました。このぶんでは道もわかりますまい。今夜は、この小屋の中に泊まっておいでなさいませんか。」・・・ 小川未明 「おおかみをだましたおじいさん」
・・・げにこの天をまなざしうとく望みて永久の希望語らいし少女と若者とは幸いなりき。 池のかなたより二人の小娘、十四と九つばかりなるが手を組みて唄いつつ来たるにあいぬ。一目にて貧しき家の児なるを知りたり。唄うはこのごろ流行る歌と覚しく歌の意はわ・・・ 国木田独歩 「おとずれ」
・・・短き坂道に来たりし時、下より騎兵二騎、何事をか声高に語らいつつ登りくるにあいたれどかれはほとんどこれにも気づかぬようにて路をよけ通しやりぬ。騎兵ゆき過ぎんとして、後なる馬上の、年若き人、言葉に力を入れ『……に候間至急、「至急」という二字は必・・・ 国木田独歩 「わかれ」
・・・女は水よりも淡き二日の語らいに、片袖を形見に残して知らぬ間にいなくなってしまった。去ってどうしたのか分らぬ。それでたくさんである。何事も二日に現れた以外に聞かぬ方がいい。もしやよけいなことを聞いたりして、千鳥の話の中の彼女に少しでも傷がつい・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・勾当は、ただちにその中山という人の宿を訪れて草々語らい、その琴の構造、わが発明と少しも違うところ無きを知り、かえって喜び、貴下は一日はやく註文したるものなれば、とて琴の発明の栄冠を、手軽く中山氏に譲ってやった。現在世に行われている「八雲琴」・・・ 太宰治 「盲人独笑」
出典:青空文庫