・・・と、非常に語尾の強い、ややぼきぼきした言葉で、注文の要件を提出した。 私共に応待した卓子の前にいた男は、立って行って、盲唖学校の近所にあるという一軒の家をサジェストした。「場所は分りますか? 電車分りますか?」「分ります。私行っ・・・ 宮本百合子 「思い出すこと」
・・・ 通りすがりに、強い葉巻の匂いを掠めて行く男、私の耳に、きれぎれな語尾の華やかな響だけをのこして過る女達。 印袢纏にゴム長靴を引ずった小僧が、岡持を肩に引かつぎ、鼻唄まじりで私の傍によって来た。どんな面白いものを見ているのか、と云う・・・ 宮本百合子 「小景」
・・・ 神さんは、語尾を引っぱったまま再び注意を自分の頭の上に向けた。 すると、二階の襖が開き、「じゃ、そんな訳ですから何分よろしゅう」と云う、錆びた中年の男の大きな声がした。その男が先に立って、どしどし階子を下りて来た。藍子は、・・・ 宮本百合子 「帆」
・・・ 彼は語尾の言葉のままに口を開けて、暫くナポレオンの顔を眺めていた。ナポレオンの唇は、間もなくサン・クルウの白い街道の遠景の上で、皮肉な線を描き出した。ネーには、このグロテスクな中に弱味を示したナポレオンの風貌は初めてであった。「陛・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
出典:青空文庫