・・・そのまた小えん自身にも、読み書きといわず芸事といわず、何でも好きな事を仕込ませていた。小えんは踊りも名を取っている。長唄も柳橋では指折りだそうだ。そのほか発句も出来るというし、千蔭流とかの仮名も上手だという。それも皆若槻のおかげなんだ。そう・・・ 芥川竜之介 「一夕話」
・・・あの通り縹致はいいし、それに読み書きが好きで、しょっちゅう新聞や小説本ばかり覗いてるような風だから、幾らか気位が高くなってるんでしょう」「だってお前、気位が高いから船乗りが厭だてえのは間違ってる。そりゃ三文渡しの船頭も船乗りなりゃ川蒸気・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・彼と同年輩、または、彼より若い年頃の者で、学校へ行っていた時分には、彼よりよほど出来が悪るかった者が、少しよけい勉強をして、読み書きが達者になった為めに、今では、醤油会社の支配人になり、醤油屋の番頭になり、または小学校の校長になって、村でえ・・・ 黒島伝治 「電報」
・・・是れが為めには娘の時より読み書き双露盤の稽古は勿論、経済法の大略を学び、法律なども一通り人の話を聞て合点する位の嗜みはなくて叶わず。遊芸和文三十一文字などの勉強を以て女子唯一の教育と思うは大なる間違いなる可し。余曾て言えることあり。男子の心・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ 故に一口に教育と呼び做せども、その領分はなかなか広きものにて、ただに読み書きを教うるのみを以て教育とは申し難し。読み書きの如きはただ教育の一部分なるのみ。実に教育の箇条は、前号にも述べたる如く極めて多端なりといえども、早くいえば、人々・・・ 福沢諭吉 「家庭習慣の教えを論ず」
・・・ 少しは読み書きも明るいけれ共、根のないお君は、ズーッと写真だけ見てしまうと、邪険に、雑誌を畳に放り出して、胸の上に手をあげて、そそくれ立った指先を見て居た。 こんなみじめな指をして居ては、若し、さっき彼の人のはめて居た様に、い・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・ 自国語で読み書きすること、著作すること、芝居することまでを禁止され、どうしてのびのびした文化が育てよう! 学校がたまに在れば、それはロシア語でだけ教えた。 赤旗はヤクーツクにも翻った。チェルフスの村にも村ソヴェトが出来た。少数民族・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・ けれ共、とにかく私はいつも自分の部屋でする通りに気を落着け心を集めて読み書きを仕様とした。 一時過ぎになるまでは至極すべてが工合よくなった。ところが、フトどうかした拍子に、大窓のカーテンの隅が三寸ばかり、明いて居るのを見つけてから・・・ 宮本百合子 「盗難」
・・・今日では自由に自分の国の言葉で読み書きは勿論演劇もやる。学校教育もやる。出版される。「労働宮」の大きくない一室のドアの上に貼られた「ユダヤ語、タタール語新聞発行所」という紙は小さいものだ。しかし、それは世界幾千万のプロレタリアの「植民地独立・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
・・・ 七歳になってゴーリキイは祖父から教会用の古代スラヴ語で読み書きの手ほどきをされた。八つで小学校に入れられたが、この時代、既に祖父は破産し、染物工場は閉鎖され、祖父、祖母、ゴーリキイの三人は、地下室住いにうつった。 吝くて狂人のよう・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫