・・・ 砂岡君と国富君とが、読み役で、籤を受取っては、いちいち大きな声で読み上げる。中には一家族五人ことごとく、下駄に当った人があった。一家族十人ばかり、ことごとく能代塗の臭い箸に当ったら、こっけいだろうと思ってたが、不幸にして、そういう人は・・・ 芥川竜之介 「水の三日」
・・・幾度もくり返して教えれば、二、三と十まで口で読み上げるだけのことはしますが、道ばたの石ころを拾うて三つ並べて、いくつだとききますと、考えてばかりいて返事をしないのです。無理にきくと初めは例の怪しげな笑い方をしていますが、後には泣きだしそうに・・・ 国木田独歩 「春の鳥」
・・・ 文章会で四方太氏が自分の文章を読み上げる少しさびのある音声にも、関西なまりのある口調にも忘れ難い特色があったが、その読み方も実にきちんとした歯切れのいい読み方であった。「ホッ、ホッ、ホッ」と押し出すような特徴ある笑声を思い出すのである・・・ 寺田寅彦 「俳諧瑣談」
・・・松さんは大きな声で一節を読み上げる。「狸が人を婆化すと云いやすけれど、何で狸が婆化しやしょう。ありゃみんな催眠術でげす……」「なるほど妙な本だね」と源さんは煙に捲かれている。「拙が一返古榎になった事がありやす、ところへ源兵衛村の・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
出典:青空文庫