・・・少し松山訛の交じった特色のある読み方で、それが当時の『ホトトギス』の気分と密接な関係のあったもののように感ぜられる。 私が生れて初めて原稿料というものを貰って自分で自分に驚いたのは「団栗」という小品に対して高浜さんから送られた小為替であ・・・ 寺田寅彦 「高浜さんと私」
・・・これらは少しの読み方で七五調に読めば読まれなくはない。 サンスクリトの詩句にも色々の定型があるようであるが、十六綴音を一句とするものの連続が甚だ多いらしい。それを少し我儘な日本流に崩して読むと、十七、十四、十七、十四、とつまり短歌の連続・・・ 寺田寅彦 「短歌の詩形」
・・・どうも地形図の読み方をよく知らない運転手が多いらしい。しかしまた前記のように地形図がアップ・ツ・デートでないためもあるかもしれない。 地形図の価値はその正確さによる。昔ベルリン留学中かの地の地埋学教室に出入していたころ、一日P教授が「お・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
・・・ 文章会で四方太氏が自分の文章を読み上げる少しさびのある音声にも、関西なまりのある口調にも忘れ難い特色があったが、その読み方も実にきちんとした歯切れのいい読み方であった。「ホッ、ホッ、ホッ」と押し出すような特徴ある笑声を思い出すのである・・・ 寺田寅彦 「俳諧瑣談」
・・・そして枕もとの花鉢をのぞき込んで、葉陰にかくれた木札を見つけ、かなで書いた花の名を一つ一つ大きな声で読み上げた、その読み方がおかしいので皆が笑った。近ごろかたかなを覚えたものだから、なんでもかたかなさえ見れば読んでみなくてはいられないのであ・・・ 寺田寅彦 「病室の花」
・・・女は長い睫を伏せて薄い唇を結んで一生懸命に、札の数を読んでいるが、その読み方がいかにも早い。しかも札の数はどこまで行っても尽きる様子がない。膝の上に乗っているのはたかだか百枚ぐらいだが、その百枚がいつまで勘定しても百枚である。 自分は茫・・・ 夏目漱石 「夢十夜」
・・・おじいさんと一緒に町へ行って習字手本や読方の本と一緒に買って来た鉛筆でした。いくらみじかくなったってまだまだ使えたのです。使えないからってそれでも面白いいい鉛筆なのです。キッコは樺の林の間を行きました。樺はみな小さな青い葉を出しすきとお・・・ 宮沢賢治 「みじかい木ぺん」
・・・文学を、歴史やその作品の生まれた社会からきりはなして見ることは本当の文学の鑑賞の仕方、読み方でもないし、或は自分の好きか嫌いかを決める標準としても不十分です。 もう一つ別の例を考えて見ましょう。イタリーをムッソリーニのファシズムの政権が・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・文学青年は、小説や評論から活きかたを学ぼうとするより、書き方をならおうとして読む、その特殊な読み方に作者が追随して来たから、遂にここに到ったと云われているようである。しかしながら、一般読者の胸の中には、折りかえして、では何故、現代の文学愛好・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
出典:青空文庫