・・・始めから先方に腹を立てさすつもりで談判をするなどというのは、馬鹿馬鹿しいくらい私にはいやな気持ちです」 彼は思い切ってここまで突っ込んだ。「お前はいやな気持ちか」「いやな気持ちです」「俺しはいい気持ちだ」 父は見下だすよ・・・ 有島武郎 「親子」
・・・冷汗を流して、談判の結果が三分、科学的に数理で顕せば、七十と五銭ですよ。 お雪さんの身になったらどうでしょう。じか肌と、自殺を質に入れたんですから。自殺を質に入れたのでは、死ぬよりもつらいでしょう。―― ――当時、そういった様子でし・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・ 僕が出発した翌日の晩、青木が井筒屋の二階へあがって、吉弥に、過日与えた小判の取り返し談判をした。「男が一旦やろうと言ったもんだ!」「わけなくやったのではない!」「さんざん人をおもちゃにしゃアがって――貰った物ア返しゃアしな・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・言うだけやったら、なんぼ言うたかてあんたは飲みなはれんさかい、こら是が非でも膝詰談判で飲まさな仕様ない思て、買うて来ましてん。さあ、一息にぱっと飲みなはれ」 と、言いながら、懐ろから盃をとりだした。「この寸口に一杯だけでよろしいねん・・・ 織田作之助 「秋深き」
・・・妹が聟養子をとるとあれば、こちらは廃嫡と相場は決っているが、それで泣寝入りしろとは余りの仕打やと、梅田の家へ駆け込むなり、毎日膝詰の談判をやったところ、一向に効目がない。妻を捨て、子も捨てて好きな女と一緒に暮している身に勝目はないが、廃嫡は・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・「そんじゃ、こっちも、みんなで、ほかの重役のとこへ膝詰談判に行こうじゃないか。伊三郎が、そんなことをしくさるんなら、こっちだって、黙って引っこんでは居れんぞ。」「うむ、そうだ、そうだ。黙って泣寝入りは出来やせん!」 K市へ出かけ・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・故郷の兄は私のだらし無さに呆れて、時々送金を停止しかけるのであるが、その度毎に北さんは中へはいって、もう一年、送金をたのみます、と兄へ談判してくれるのであった。一緒にいた女の人と、私は別れる事になったのであるが、その時にも実に北さんにお手数・・・ 太宰治 「帰去来」
・・・飼い主に談判するなど、その友人の弱気をもってしては、とてもできぬことである。じっと堪えて、おのれの不運に溜息ついているだけなのである。しかも、注射代などけっして安いものではなく、そのような余分の貯えは失礼ながら友人にあるはずもなく、いずれは・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・一人は車掌に談判する。今二人は運転手に談判する。車の屋根に乗っている連中は、蝙蝠傘や帽やハンケチを振っておれを呼ぶ。反対の方角から来た電車も留まって、その中でも大騒ぎが始まる。ひどく肥満した土地の先生らしいのが、逆上して真赤になって、おれに・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・そのかけにも老主人が勝ってそうしてすまして相手の銭をさらって、さて悠々と強敵と手詰めの談判に出かけるところにはちょっとした「俳諧」があるように思われた。 最後に、勲功によって授爵される場面で、尊貴の膝下にひざまずいて引き下がって来てから・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
出典:青空文庫