・・・死ねば天堂へ行かれる、未来は雨蛙といっしょに蓮の葉に往生ができるから、この世で善行をしようという下卑た考と一般の論法で、それよりもなお一層陋劣な考だ。国を立つ前五六年の間にはこんな下等な考は起さなかった。ただ現在に活動しただ現在に義務をつく・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・畢竟するに女大学記者が男尊女卑の主義を張らんとして其根拠なきに苦しみ、纔に古の法なるものを仮り来りて天地など言う空想を楯にし、論法を荘厳にして以て女性を圧倒し、無理にもこれを暗処に蟄伏せしめんとの窮策に出でたるものと言う可し。既に男尊女卑と・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ こんにち、いくらかひろげられている発言の範囲で考えると、当時論じられた日本の転向の問題は論法のすべてを一貫して、観念的な傾きがつよく見られる。日本の治安維持法は、マルクシズムを放棄させ、運動から離脱することを要求したばかりでなく、更に・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・誰がよんでも、護持派の文学論法であり、それは彼の戦争協力、「大人の文学」論、人間と文学との基本的権利の抹殺行動につながる林房雄の論法に、だまって肯くという態度を示さなければならないのだろう。林房雄は、『群像』十二月の座談会で宇野浩二の「文学・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・いう人たちはイタリーにファッシストができたから、それが拡がってドイツのナチスになり、ドイツのナチスはイギリスに拡がるばかりか東洋の国々にもやがて拡がって来るであろうし、拡がって来るのが当然であるという論法を立てる。はたしてそうであろうか? ・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・外へも出られないというのが本当ならどうして小説が書けている、と特高の論法になるかもしれない。 わたしにどんな一つの特権があるのではない。わたしはわたしとして基本的な人間の権利を明らかにしているだけである。むごさという感覚をとりおとした人・・・ 宮本百合子 「孫悟空の雲」
・・・この論法をもってすれば、同志小林が残虐きわまる拷問にあいつつ堅忍不抜、ついにボルシェヴィキの党派性を死守して英雄的殉難を遂げたそのボルシェヴィクの最後の積極性が発揮された時こそ、同志小林は最も偏狭であったということになるのだ。 同志小林・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価に寄せて」
・・・Hegel 派の極左党で、無政府主義を跡継ぎに持っている Max Stirner の鋭利な論法に、ハルトマンは傾倒して、結論こそ違うが、無意識哲学の迷いの三期を書いた。ニイチェの「神は死んだ」も、スチルネルの「神は幽霊だ」を顧みれば、古いと・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
出典:青空文庫