・・・ ここに於いて、かの落第生伊村君の説は、完膚無き迄に論破せられたわけである。伊村説は、徹頭徹尾誤謬であったという事が証明せられた。ウソであったのである。私は、サタンでなかったのである。へんな言いかたであるが、私は、サタンほど偉くはない。・・・ 太宰治 「誰」
・・・そう言う私だとて病人づらをして、世評などは、と涼しげにいやいやをして見せながらも、内心如夜叉、敵を論破するためには私立探偵を十円くらいでたのんで来て、その論敵の氏と育ちと学問と素行と病気と失敗とを赤裸々に洗わせ、それを参考にしてそろそろとお・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・ 右第一条より第二十三条に至るまで、概して我国古来の定論に反するのみならず、前には旧女大学の条々を論破し去て、更らに新女大学の新主義を唱うることなれば、新旧方円相容れずして世間に多少の反対論もある可し。旧説は両性の関係を律するに専ら・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・だから若い進歩的な人々は、ただ親を――古い時代を論破するという段階からはずっと進みでているわけで、休暇中に国へ帰っている学生たちの仕事は、その土地での生活擁護のいろいろな活動に入っていって、実際に土地の住民としての親が苦しんでいる問題を解決・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・しかも彼はこの語で徹底を説くものを論破したつもりになっている。これによっても彼がかつて「徹底」を問題としなかった事は明らかである。なぜなら彼の態度には、徹底を要求する者の苦しみと努力とに対するいささかの同情も同感も現われていないからである。・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫