・・・尤も今ほど一般的ではなかったが、上台閣の諸公から先きへ立って浮れたのだから上流社会は忽ち風靡された。当時の欧化熱の急先鋒たる公伊藤、侯井上はその頃マダ壮齢の男盛りだったから、啻だ国家のための政策ばかりでもなくて、男女の因襲の垣を撤した欧俗社・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・ 文壇の諸公をいわゆる文明社会に住む人と見傚せば、勢いこの性質を具していなければならない。人間としてこの性質を帯びている以上は作物の上にも早晩この性質を発揮するのが天下の趨勢である。いわゆる混戦時代が始まって、彼我相通じ、しかも彼我相守・・・ 夏目漱石 「文壇の趨勢」
・・・すなわち天保・弘化の際、蘭学の行われしは、宝暦・明和の諸哲これが初階を成し、方今、洋学のさかんなるは、各国の通好によるといえども、実に天保・弘化の諸公、これが次階をなせり。然らばすなわち吾が党、今日の盛際に遇うも、古人の賜に非ざるをえんや。・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾の記」
・・・しかしテーマは、古代ペルシアの王と諸公の運命を支配していた封建的な関係。同じ社会的な条件で、その愛も全うされなかった男女、その間に生れた雄々しい若者。最後のクライマックスで、封建社会での王は最も頼みにしているルスタムの哀訴さえ自身の権勢を安・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・過去の雄々しい作曲家たちが、平民の生れで、諸公たち、諸紳士淑女たちの習俗に常に居心地わるがりながら、しかも僅に、その諸公、諸紳士淑女をもよろこばせる範囲の諧謔に止っていたのだとすれば、明日の作曲家たちの宇宙は、この方面にも勇ましくひろげられ・・・ 宮本百合子 「音楽の民族性と諷刺」
・・・ 武士は明け暮れ血眼で居らねばならぬ諸公の身分をうらやみ、諸公は王をうらやんで、すべてのものに仰がるる王は又神をうらやみ、下っては只一振りの剣が命の武士をうらやむと申すのは神でのうてはわかり得ぬほどいつの世にも変らぬ不思議な事の一つでご・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
出典:青空文庫