・・・この教育と文芸というのは、諸君が主であるからまげて教育をさきとしたのであります。 よく誤解される事がありますので、そんな事があっては済みませんから、ちょっと注意を申述べて置きます。教育といえばおもに学校教育であるように思われますが、今私・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・今日、諸君のこの厚意に対して、心窃に忸怩たらざるを得ない。幼時に読んだ英語読本の中に「墓場」と題する一文があり、何の墓を見ても、よき夫、よき妻、よき子と書いてある、悪しき人々は何処に葬られているのであろうかという如きことがあったと記憶する。・・・ 西田幾多郎 「或教授の退職の辞」
・・・たとえば諸君は、夜おそく家に帰る汽車に乗ってる。始め停車場を出発した時、汽車はレールを真直に、東から西へ向って走っている。だがしばらくする中に、諸君はうたた寝の夢から醒める。そして汽車の進行する方角が、いつのまにか反対になり、西から東へと、・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・ ――諸君、善良なる諸君、われわれは今、刑務所当局に対して交渉中である! 同志諸君の貴重なる生命が、腐敗した罐詰の内部に、死を待つために故意に幽閉されてあるという事実に対して、山田常夫君と、波田きし子女史とは所長に只今交渉中である。また・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・怱々筆をとって西洋書中の大意を記し、他日諸君の考案にのこすのみ。明治三年庚午一一月二七夜、中津留主居町の旧宅敗窓の下に記す福沢諭吉 福沢諭吉 「中津留別の書」
・・・実に有り難い。諸君。諸君には見えないだろうが僕は草葉の陰から諸君の厚誼を謝して居るよ。去る者は日々に疎しといってなかなか死者に対する礼はつくされないものだ。僕も生前に経験がある。死んだ友達の墓へ一度参ったきりでその後参ろう参ろうと思って居な・・・ 正岡子規 「墓」
・・・「いまや夕べははるかにきたり、拙講もまた全課をおえた。諸君のうちの希望者は、けだしいつもの例により、そのノートをば拙者に示し、さらに数箇の試問を受けて、所属を決すべきである。」学生たちはわあと叫んで、みんなばたばたノートをとじました。そ・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・組合員諸君及集団農民諸君! このテンポをおとすな!」そしてバタ生産に関する農村通信員の面白い批判が掲載されている。バタ工場の支配人を代えろ!バタ工場上ナザロフスキーの支配人ゴルデーエフは生産に従事することを欲していない。工場は無・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・そうして予をしてかつて無礼にも諸君に末流の称を献じた失言を謝せしめて下さい。鴎外は甘んじて死んだ。予は決して鴎外の敵たる故を以て諸君を嫉むものではない。明治三十三年一月於小倉稿。 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
・・・そうでしょう、読者諸君。 その内に日は名残りなくほとんど暮れかかッて来て雲の色も薄暗く、野末もだんだんと霞んでしまうころ、変な雲が富士の裾へ腰を掛けて来た。原の広さ、天の大きさ、風の強さ、草の高さ、いずれも恐ろしいほどに苛めしくて、人家・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫