・・・ それ故西洋諸国の出版業者が、著者に対する尊敬と読者に対する愛敬とからして、やや高尚なる文学書類を多くパンフレツトで出版するのは、さもあるべき筈のことではないか。この仕方で出版された書物は、その特種なる国民的趣味を代表する表紙の一色によ・・・ 萩原朔太郎 「装幀の意義」
・・・日本の諸国にあるこの種の部落的タブーは、おそらく風俗習慣を異にした外国の移住民や帰化人やを、先祖の氏神にもつ者の子孫であろう。あるいは多分、もっと確実な推測として、切支丹宗徒の隠れた集合的部落であったのだろう。しかし宇宙の間には、人間の知ら・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・凡そ男女交際の清濁は其気品の如何に関することにして、例えば支那主義の眼を以て見れば、西洋諸国の貴女紳士が共に談じ共に笑い、同所に浴こそせざれ同席同食、物を授受するに手より手にするのみか、其手を握るを以て礼とするが如き、男女別なし、無礼の野民・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ また試みに見よ、今の西洋諸国は果して至文至明の徳化にあまねくして、その人民は皇々如として王者の民の如くなるか。我が人民の智力学芸に欠点あるも、よくこれを容れてその釁に切込むことなく、永く対立の交際をなして、これに甘んずる者か。余輩断じ・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・願というその夜に、小い阿弥陀様が犬の枕上に立たれて、一念発起の功徳に汝が願い叶え得さすべし、信心怠りなく勤めよ、如是畜生発菩提心、善哉善哉、と仰せられると見て夢はさめた、犬はこのお告に力を得て、さらば諸国の霊場を巡礼して、一は、自分が喰い殺・・・ 正岡子規 「犬」
・・・茶筌花咲く椿かな 雁宕久しく音づれせざりければ有と見えて扇の裏絵覚束な 波翻舌本吐紅蓮閻王の口や牡丹を吐かんとす 蟻垤蟻王宮朱門を開く牡丹かな浪花の旧国主して諸国の俳士を集めて円山に会筵しける時・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・印度をはじめとするアジアの諸国は、そのゆたかな天然の資源と、生産の発達が遅れている半封建的社会の条件を利用されて、ヨーロッパの資本主義の植民地または半植民地として、土着の民族のいたましい生活がつづきました。 第二次世界大戦ののち、アジア・・・ 宮本百合子 「新しいアジアのために」
・・・として、資本主義社会での現実の考えかた、観かたはいつも真に透徹した明晰さをかいていて、どこかに真実を歪めたりかくしたりする偽瞞をもっていること、詭弁から解放され得ないことを、ソヴェトのそとのヨーロッパ諸国の生活のあらゆる細目から感じた。その・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・代に召し出されしものなるが、父田中甚左衛門御旨に忤い、江戸御邸より逐電したる時、御近習を勤めいたる伝兵衛に、父を尋ね出して参れ、もし尋ね出さずして帰り候わば、父の代りに処刑いたすべしと仰せられ、伝兵衛諸国を遍歴せしに廻り合わざる趣にて罷り帰・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・辰敬自身は、青年時代以来諸国を放浪して歩いたが、その間に、「力を以て事をなすは下の人、心を働かして心にて事をなすは上の人」と悟ったのである。悟ってみると父の教訓がしみじみと思い出されて来る。で、心を正直に持ち、ついに身を立てることができたの・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫