・・・その時から生活の諸相が総て眼の前で変ってしまった。 お前たちの中最初にこの世の光を見たものは、このようにして世の光を見た。二番目も三番目も、生れように難易の差こそあれ、父と母とに与えた不思議な印象に変りはない。 こうして若い夫婦はつ・・・ 有島武郎 「小さき者へ」
・・・政治の上にも、宗教の上にも、その他人間生活のすべての諸相の上にかかる普遍的な要素は、多いか少ないかの程度において存在している。それを私は無視しているものではない。それはあまりに明白な事実であるがゆえに、問題にしなかっただけのことだ。 私・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・馬琴の人生観や宇宙観の批評は別問題として、『八犬伝』は馬琴の哲学諸相を綜合具象した馬琴宗の根本経典である。 三 『八犬伝』総括評 だが、有体に平たくいうと、初めから二十八年と予定して稿を起したのではない。読者の限・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・ こういうふうに考えて来ると、ほとんどあらゆる種類の文学の諸相は皆それぞれ異なる形における実験だと見られなくはない。 写実主義、自然主義といったような旗じるしのもとに書かれた作品については別に注釈を加える必要はない。すでにそれらのも・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・このような珍しい現象の記録をそれが消えない今のうちに収集しておくのは、切手やマッチのレッテルの収集よりは有意義であろうと思っていたが、近刊の板垣鷹穂氏著「芸術的現代の諸相」の中に、このような収集の一部が発表されているのを見てなるほどと思うの・・・ 寺田寅彦 「カメラをさげて」
・・・ 彼の好色物に現われた性生活の諸相の精細な描写記録は、この人間界の最も深刻な事実を事実として客観的に集輯したものであるには相違ないが、彼がそういうものを著述する際における彼の態度が、果して動物の観察者が動物の生活を記載する場合と同じもの・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・国のようにこういう災禍の頻繁であるということは一面から見ればわが国の国民性の上に良い影響を及ぼしていることも否定し難いことであって、数千年来の災禍の試練によって日本国民特有のいろいろな国民性のすぐれた諸相が作り上げられたことも事実である。・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・先生の俳句を味わう事なしに先生の作物の包有する世界の諸相を眺める事は不可能なように思われる。また先生の作品を分析的に研究しようと企てる人があらばその人はやはり充分綿密に先生の俳句を研究してかかる事が必要であろうと思う。・・・ 寺田寅彦 「夏目先生の俳句と漢詩」
・・・ それで以下にまず日本の自然の特異性についてきわめて概略な諸相を列記してみようと思う。そうしてその次に日本人がそういう環境に応じていかなる生活様式を選んで来たかということを考えてみたら、それだけでも私に課せられた問題に対する私としての答・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ 俳諧はわが国の文化の諸相を貫ぬく風雅の精神の発現の一相である。風雅という文字の文献的起原は何であろうとも、日本古来のいわゆる風雅の精神の根本的要素は、心の拘束されない自由な状態であると思われる。思無邪であり、浩然の気であり、涅槃で・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
出典:青空文庫