・・・などという句を引いて講釈されると、そうかとも思われる。江南には銅器が多いからである。しかし骨董は果して古銅から来た語だろうか、聊か疑わしい。もし真に古銅からの音転なら、少しは骨董という語を用いる時に古銅という字が用いられることがありそうなも・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・手長、獅子、牡丹なぞの講釈を聞かせて呉れたあの理学士の声はまだわたしの耳にある。今度わたしはその人の愛したものを自分でもすこしばかり植えて見て、どの草でも花咲くさかりの時を持たないものはないことを知った。おそらくどんな芸術家でも花の純粋を訳・・・ 島崎藤村 「秋草」
・・・日本の浪花節みたいな、また、講釈師みたいな、勇壮活溌な作家たちには、まるで理解ができないのではあるまいか。おそらく、豊島先生は、いちども、そんな勇壮活溌な、喧嘩みたいなことを、なさったことはないのではあるまいか。いつも、負けてばかり、そうし・・・ 太宰治 「豊島與志雄著『高尾ざんげ』解説」
・・・やらを、少しも照れずに自慢し、その長所、美点を講釈している。そのもうろくぶりには、噴き出すほかはない。作家も、こうなっては、もうダメである。「こしらえ物」「こしらえ物」とさかんに言っているようだが、それこそ二十年一日の如く、カビの生えて・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・家内まで、その仲間にはいってアセモの講釈などをはじめた。私は、どうも駄目である。仲間になれない。どうせおれは異様なんだ、とひとりでひがんで、帰りしなに、またちらと少女を見た。やっぱり、ふたりの黒い老人のからだに、守られて、たからもののように・・・ 太宰治 「美少女」
・・・ドクトル、ベエアマンはここで花崗岩の破れ目の出来方について講釈をして聞かせた。 あらかた葉をふるったぶなの森の中を霧にしめった落葉を踏みしめて歩いた。からだの弱そうなフロイラインWは重いリュクサックの紐に両手をかけて俯向きがちに私の前を・・・ 寺田寅彦 「異郷」
・・・少なくも仮りに私が机の上で例えば大根の栽培法に関する書物を五、六冊も読んで来客に講釈するか、あるいは神田へ行って労働問題に関する書物を十冊も買い込んで来て、それについて論文でも書くとすればどうだろう。つまりはヘレン・ケラーが雪景色を描き、秋・・・ 寺田寅彦 「鸚鵡のイズム」
・・・シューというのはフランス語でキャベツのことだとS君が当時フランス語の独修をしていた自分に講釈をして聞かせた。 運命の神様はこの年から三十余年後の今日までずっと自分を東京に定住させることにきめてしまった。明治四十二年から四年へかけて西洋へ・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・ そもそも私に向って、母親と乳母とが話す桃太郎や花咲爺の物語の外に、最初のロマンチズムを伝えてくれたものは、この大黒様の縁日に欠かさず出て来たカラクリの見世物と辻講釈の爺さんとであった。 二人は何処から出て来るのか無論私は知らない。・・・ 永井荷風 「伝通院」
・・・唖々子は時々長い頤をしゃくりながら、空腹に五、六杯引掛けたので、忽ち微醺を催した様子で、「女の文学者のやる演説なんぞ、わざわざ聴きに行かないでも大抵様子はわかっているじゃないか。講釈師見て来たような虚言をつき。そこが芸術の芸術たる所以だろう・・・ 永井荷風 「十日の菊」
出典:青空文庫