・・・わたくしは万事につけて、一足一足と譲歩して参りました。わたくしには自己の意志と云うものがございません。わたくしは持前の快活な性質を包み隠しています。夫がその性質を挑発的だと申すからでございます。わたくしはただ平和が得たいばかりに、自己の個人・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・これらの人々は旧い習慣や生活感情に対して、ある程度までそれを傷つけないような方法を考えながら、しかし決して根本的には譲歩しないで、自分たちの働く者としての立場、その立場に立った夫婦としての生活、その立場に立った親子としての生活を建設しようと・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・減刑運動という名のもとに、日本のまちがった民族主義の思想がふたたびうごめき出し、戦争挑発が拡大するような事態を許すならば、わたしたち人民の譲歩は、度をこしている。満州侵略に着手した田中義一の内閣に外交官であった吉田茂が、この減刑運動を、国内・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・子供が将来、独立人としての見識をもち、同時に、美しい寛大さと、威厳を失うことのない譲歩とを学ぶ、みなもとです。 日本が民主の国にならなければならない、その大切な毎日の発展は、こういう母たちの心がけのうちに、かもされてゆくのだと思います。・・・ 宮本百合子 「新しい躾」
・・・をよむと、誤りをみとめつつ、なお林房雄などの卑劣さに対する本質的ないきどおりをしずめかねて、うたれつつたたかれつつ、なお自分の発言した心情の地点を譲歩しようとしていないわたしの姿が浮んでいる。 当時の運動の困難な状態が、運動に熟達してい・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・アンネットは一旦自分を譲ったら徹底的に譲歩する自分の性質、並に必ず反抗するに違いない自分の自由を欲する魂をよく知っている。 中年に成って、アンネットはその恋愛に征服された。彼女は精力的な、社会の下層から身をのし上げた、有名な、派手な、素・・・ 宮本百合子 「アンネット」
・・・パストゥールが、科学の示した真実についてどこまでも譲歩せず屈従せず其の真実性を守ったことから人類への福祉はもたらされたのだし、感動的な美がその物語のうちに生じたのであって、万一あれがクリスチャン・サイエンスの映画であったら、何の美しさや感動・・・ 宮本百合子 「科学の精神を」
・・・ローマの権力に対して譲歩しない批判者であった大工の息子のイエスは、彼の意見に同感し、行動をともにするようになった漁夫のペテロそのほかの素朴な人たちとともに、苦しみのなかに生きている一人の者として、マリアを正統な人間関係の中へおくようにした。・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・フランスとドイツの伝統的な対立の感情は誰でも知っているから、フランスは侵入されてもなかなか譲歩しないだろうと思われていた。世界のいろいろな国民がそう思っていたばかりでなく、フランスの国民の大部分もそう思っていたらしい。ところが、巴里の凱旋通・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・世論は当然反対し、ひとまず現在の内閣直属の用紙割当委員会の自主的権限を認めるところまで譲歩させた。しかしここに奇妙なことがある。日本出版協会は、内閣直属の用紙割当委員会ができるとき、出版協会の文化委員会を総動員して反対運動にたった。ところが・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
出典:青空文庫