・・・とにかく生徒を護摩かすくらいは何とも思わぬはずの彼がその時だけはまっ赤になったのである。生徒は勿論何も知らずにまじまじ彼の顔を眺めていた。彼はもう一度時計を見た。それから、――教科書を取り上げるが早いか、無茶苦茶に先を読み始めた。 教科・・・ 芥川竜之介 「保吉の手帳から」
・・・人形使 されば、この土地の人たちはじめ、諸国から入込んだ講中がな、媼、媽々、爺、孫、真黒で、とんとはや護摩の煙が渦を巻いているような騒ぎだ。――この、時々ばらばらと来る梅雨模様の雨にもめげねえ群集だでね。相当の稼ぎはあっただが、もうやが・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・この時代の人は大概現世祈祷を事とする堕落僧の言を無批判に頂戴し、将門が乱を起しても護摩を焚いて祈り伏せるつもりでいた位であるし、感情の絃は蜘蛛の糸ほどに細くなっていたので、あらゆる妄信にへばりついて、そして虚礼と文飾と淫乱とに辛くも活きてい・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
出典:青空文庫