・・・の中でスタインベックは、カリフォルニアの果樹園とそのまわりにあぶれている季節労働者――土地をとられた農民の群の有様を描いている。豊饒なカリフォルニアの果樹園で、市価がやすいために収穫がのばされている。樹の下には甘熟した果物が重なって落ちて、・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・ 作者がこの一篇の女主人公として描き出しているスーザン・ゲイロードは、女のなかの女ともいうべき豊饒な、生活力に満ちた、彫刻の才能にめぐまれた一人の若い女性である。世界で一番いい妻になって、一番いい母になって、そして石や青銅で美しい像をつ・・・ 宮本百合子 「『この心の誇り』」
・・・つづけてまた別のを、と、今日の本の読まれかたの多量さのうちには、何ごとかが判ったから先へ進むという摂取の豊饒さではなくて、どうも分らないからまたほかのを読んで見るという心理にうながされた気ぜわしさ、乱読も相当の割合を占めて来ているのである。・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
・・・ 現実は豊饒、強靭であって、作家がそれに皮肉さをもって対しても、一応の揶揄をもって対しても、大概は痛烈な現実への肉迫とならず、たかだか一作家のポーズと成り終る場合が非常に多い。作家は、現実に向って飽くまで探求的であり、生のままの感受性を・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・評価の規準を我にも人にも否定し去っていたのであったから、古典を読むに当っても当然の結果として読む人々の作家的主観の傾向に準じて、謂わば鑑賞する態度に止まらざるを得ないのであったから、一般文学の創作力の豊饒化という、客観的な影響にまでその研究・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・文学の現実の豊饒は、決して政論的に抽出された数箇の合言葉ではもたらされないという教訓深い事実である。 日独協定が行われて略一ヵ年を経た本年下四期に日伊協定が結ばれ、南京陥落の大提灯行列は、大本営治下の各地をねり歩いた。十二月二十四日開催・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・彼の空想の豊饒さの裡には、蒼ざめた果敢なさや、愚痴や只甘い歎息は左様ならを云われている。 Lord Dunsany に次で、現今米国の知識階級に悦ばれているのは、John Galsworthy や H. G. Wells などであろ・・・ 宮本百合子 「最近悦ばれているものから」
・・・今日の科学の可能と明日の科学のために未だのこされている客観的現実の豊饒さ、科学的方法が年から年へ進歩する行進曲の意味を心と身にひき添えて科学者たることを生きる歓びと感じ得る科学者。科学的探求を、云うところの学問として静的に見ず、社会と歴史と・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・如何にも、物質的に豊饒である米国は、教育機関をより自由に、より完全に運転致して居ります。けれども、或機関があると云う事は、只其のみで齎らさるべき結果の価値を定めるものではございません。幾何の大学が在り、幾種の専門学校があったとしても、若し其・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・つまりは美を生み出してゆく可能力がどの程度まで豊饒に一般の生活感情の内にはらまれているかという点が、問題になって来るのである。今日の日本では一般の生活感情が動揺しているとともに、そこにふくまれている創意性も複雑な転変を経験しているのが実際で・・・ 宮本百合子 「生活のなかにある美について」
出典:青空文庫