・・・樹下石上というと豪勢だが、こうした処は、地蔵盆に筵を敷いて鉦をカンカンと敲く、はっち坊主そのままだね。」「そんなに、せっかちに腰を掛けてさ、泥がつきますよ。」「構わない。破れ麻だよ。たかが墨染にて候だよ。」「墨染でも、喜撰でも、・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・掏摸が一度、豪勢な身なりをしている男の懐中物をくすねて鼻をあかしてやると、その快味が忘れられず、何回もそれを繰りかえし、かっぱらう。そして、そのことのおもしろ味を享楽する。彼は、ちょうど、その掏摸根性のような根性を持っていた。 密輸入商・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・どんな豪勢なステージでも、結婚式場でも、こんなにたくさんの花をもらった人はないだろう。花でめまいがするって、そのとき初めて味わった。その真白い大きい大きい花束を両腕をひろげてやっとこさ抱えると、前が全然見えなかった。親切だった、ほんとうに感・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・でもあなたのハンド・バッグのなかは豊富で、汽車がひっくりかえったときの内田さんのように、いくらでもとおっしゃるとすれば、マア豪勢みたいなものではないの。 私の方の状態は、先ず大笑一番しなければ、ものも云えないような有様でね。おかしいでし・・・ 宮本百合子 「裏毛皮は無し」
・・・ 特別豪勢な場面や、ハッキリした印象ってもんがちっともないんだ。小説ん中へ出て来るどの人物にしろ、何か事件を始めてそれをしまいまでやっつけるって云うことがない。小説は集団生活を書いたものだのに、実際は集団生活なんぞ、書かれてはいない。俺達は・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
出典:青空文庫