・・・牡蠣の貝殻。かぼちゃの皮。砂利道。虫食った葉。とさか。胡麻。絞り染。蛸の脚。茶殻。蝦。蜂の巣。苺。蟻。蓮の実。蠅。うろこ。みんな、きらい。ふり仮名も、きらい。小さい仮名は、虱みたい。グミの実、桑の実、どっちもきらい。お月さまの拡大写真を見て・・・ 太宰治 「皮膚と心」
・・・独り荷物をかついで魚臭い漁師町を通り抜け、教わった通り防波堤に沿うて二町ばかりの宿の裏門を、やっとくぐった時、朧の門脇に捨てた貝殻に、この山吹が乱れていた。翌朝見ると、山吹の垣の後ろは桑畑で、中に木蓮が二、三株美しく咲いていた。それも散って・・・ 寺田寅彦 「嵐」
・・・河豚は一枚歯で、すごく力が強く貝殻でも食い割ってしまう。したがって、海底での貝の身をエサにしている河豚の味がよくなるわけだが、この河豚を釣るのはそう簡単ではない。ソコブクの一コン釣りといって、名人芸の一つにされている。私もしばしば試みたけれ・・・ 火野葦平 「ゲテ魚好き」
・・・左手の渚には、波がやさしい稲妻のように燃えて寄せ、右手の崖には、いちめん銀や貝殻でこさえたようなすすきの穂がゆれたのです。 だんだん近付いて見ると、一人のせいの高い、ひどい近眼鏡をかけ、長靴をはいた学者らしい人が、手帳に何かせわしそうに・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・そしたら丁度あしもとの砂に小さな白い貝殻に円い小さな孔があいて落ちているのを見ました。つめたがいにやられたのだな朝からこんないい標本がとれるならひるすぎは十字狐だってとれるにちがいないと私は思いながらそれを拾って雑嚢に入れたのでした。そした・・・ 宮沢賢治 「サガレンと八月」
・・・ そしてポウセ童子は、白い貝殻の沓をはき、二人は連れだって空の銀の芝原を仲よく歌いながら行きました。「お日さまの、 お通りみちを はき浄め、 ひかりをちらせ あまの白雲。 お日さまの、 お通りみちの 石かけを・・・ 宮沢賢治 「双子の星」
・・・ 見るとそれは実に立派なばけもの紳士でした。貝殻でこしらえた外套を着て水煙草を片手に持って立っているのでした。「おじさん。もう飢饉は過ぎたの。手伝いって何を手伝うの。」「昆布取りさ。」「ここで昆布がとれるの。」「取れると・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
出典:青空文庫