・・・ 若崎は話しの流れ方の勢で何だか自分が自分を弁護しなければならぬようになったのを感じたが、貧乏神に執念く取憑かれたあげくが死神にまで憑かれたと自ら思ったほどに浮世の苦酸を嘗めた男であったから、そういう感じが起ると同時にドッコイと踏止まる・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・まるで貧乏神そっくりと云う風をしているなあ。きょうは貰いがなかったのかい。おれだっておめえと同じ事だ。まずい商売だよ。競争者が多過ぎるのだ。お得意の方で、もう追っ附かなくなっている。おれなんぞはいろんな事をやってみた。恥かしくて人に手を出す・・・ 著:ブウテフレデリック 訳:森鴎外 「橋の下」
・・・角力で言えば、貧乏神の席である。 Vis-ウィザ ウィイス の先生は、同じ痩せても、目のぎょろっとした、色の浅黒い、気の利いた風の男で、名を犬塚という。某局長の目金で任用せられたとか云うので、木村より跡から出て、暫くの間に一給俸まで漕ぎ・・・ 森鴎外 「食堂」
出典:青空文庫