・・・カーライルがわれわれに遺してくれたこの本は実にわれわれの貴ぶところでございます。しかしながらフランスの革命を書いたカーライルの生涯の実験を見ますと、この本よりかまだ立派なものがあります。その話は長いけれどもここにあなたがたに話すことを許して・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・ 正義のために殉じ、真理のために、一身を捧ぐることは、もとより、人類の向上にとって、最も貴ぶべく、また正しいことです。しかし、戦争が果して、それであると言い得られるでありましょうか? 少年を持つ親として、このことに考え至る者は、私一・・・ 小川未明 「男の子を見るたびに「戦争」について考えます」
・・・マアこんな意味合もあって、骨董は誠に貴ぶべし、骨董好きになるのはむしろ誇るべし、骨董を捻くる度にも至らぬ人間は犬猫牛豚同様、誠にハヤ未発達の愍むべきものであるといってもよいのである。で、紳士たる以上はせめてムダ金の拾万両も棄てて、小町の真筆・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・をかじり、干物塩物や、季節にかまわず豚や牛ばかり食っている西洋人やシナ人、あるいはほとんど年じゅう同じような果実を食っている熱帯の住民と、「はしり」を喜び「しゅん」を貴ぶ日本人とはこうした点でもかなりちがった日常生活の内容をもっている。この・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・厄介ではあるけれども、イミテートする人あるいは自己の標準を欠いていて差し障りのない方が間違いがなくて安心だというような人に比べれば、自己の標準があるだけでもこっちの方が恕すべく貴ぶべし――といったらどんな奴が出て来るか分らぬが、事実貴ぶべき・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・此点に於ては我輩は日本婦人の習慣をこそ貴ぶ者なれば、世は何ほど開明に進むも家は何ほど財産に富むも、糸針の一時は婦人の為めに必要、又高尚なる技芸として努ゆめゆめ怠る可らず。又茶酒など多く飲む可らずと言う。茶も過度に飲めば衛生に害あり、況んや酒・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・改進家流にも賤しむべき者あらん、守旧家流にも貴ぶべき人物あらん。これを評論するは本編の旨に非ず。ただ、国勢変革の前後をもって、かりに上下の名を下したるのみ。 かくの如く、天下の人心を二流に分ち、今の政府はそのいずれの方にあるものなりやと・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・ 朝廷には位を貴び、郷党には齢を貴ぶというは、政府の官職貴きも、これをもって郷党民間の交際を軽重するに足らずとの意味ならん。いわんや学問社会に対するにおいてをや。政府の官途に奉職すればとて、その尊卑は毫も効なきものと知るべし。仏蘭西の大・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・いかにも人間社会の一大悪事にして、これを救わんとするの議論は誠に貴ぶべしといえども、未だよくこの悪事の原因を求め尽したる者にあらざるが如し。そもそも一国の政府にもせよ、また会社にもせよ、その処置に専制の行わるるは何ぞや。必ずしも一人の君主ま・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・一 女性は最も優美を貴ぶが故に、学問を勉強すればとて、男書生の如く朴訥なる可らず、無遠慮なる可らず、不行儀なる可らず、差出がましく生意気なる可らず。人に交わるに法あり。事に当りて論ず可きは大に論じて遠慮に及ばずと雖も、等しく議論するにも・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
出典:青空文庫