・・・「ええ、何ですか、貸座敷の御主人なんでございます。」「貸座敷――女郎屋の亭主かい。おともはざっと幇間だな。」「あ、当りました、旦那。」 と言ったが、軽く膝で手を拍って、「ほんに、辻占がよくって、猟のお客様はお喜びでござい・・・ 泉鏡花 「鷭狩」
この一、二年何のかのと銀座界隈を通る事が多くなった。知らず知らず自分は銀座近辺の種々なる方面の観察者になっていたのである。 唯不幸にして自分は現代の政治家と交らなかったためまだ一度もあの貸座敷然たる松本楼に登る機会がなかったが、し・・・ 永井荷風 「銀座」
・・・家厳が力をつくして育し得たる令息は、篤実一偏、ただ命これしたがう、この子は未だ鳥目の勘定だも知らずなどと、陽に憂てその実は得意話の最中に、若旦那のお払いとて貸座敷より書附の到来したる例は、世間に珍しからず。 人の智恵は、善悪にかかわらず・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
出典:青空文庫