・・・ 浅草はあんまりぞっとしないが、親愛なる旧友のいう事だから、僕も素直に賛成してさ。真っ昼間六区へ出かけたんだ。――」「すると活動写真の中にでもい合せたのか?」 今度はわたしが先くぐりをした。「活動写真ならばまだ好いが、メリイ・ゴ・・・ 芥川竜之介 「一夕話」
・・・ 友人たちは皆賛成だと見えて、てんでに椅子をすり寄せながら、促すように私の方を眺めました。そこで私は徐に立ち上って、「よく見ていてくれ給えよ。僕の使う魔術には、種も仕掛もないのだから。」 私はこう言いながら、両手のカフスをまくり・・・ 芥川竜之介 「魔術」
・・・そしてフレンチは、自分も裁判の時に、有罪の方に賛成した一人である、随って処刑に同意を表した一人であると思った。そう思うと、星を合せていられなくなって、フレンチの方で目をそらした。 短い沈黙を経過する。儀式は皆済む。もう刑の執行より外は残・・・ 著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外 「罪人」
・・・満蔵はお祖母さんが餅に賛成だという。姉はお祖母さんは稲を刈らない人だから、裁決の数にゃ入れられないという。各受け持ちの仕事は少しも手をゆるめないで働きながらの話に笑い興じて、にぎやかなうちに仕事は着々進行してゆく。省作が四挺の鎌をとぎ上げた・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・そうですとも僕は令妹の御考えに大賛成だ。 こんな調子で余は岡村に、君の資格を以てして今から退隠的態度をとるは、余りに勇気に乏しく、資格ある人士の義務から考えても、自家将来の幸福を求むる点から考えても、決して其道でないと説いた。岡村は冷か・・・ 伊藤左千夫 「浜菊」
・・・「あたい、賛成だ、わ。甲州にいた時、朋輩と一緒に五郎、十郎をやったの」「さぞこの尻が大きかっただろう、ね」うしろからぶつと、「よして頂戴よ、お茶を引く、わ」と、僕の手を払った。「お前が役者になる気なら、僕が十分周旋してやらア・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・晩年一部の好書家が斎展覧会を催したらドウだろうと鴎外に提議したところが、鴎外は大賛成で、博物館の一部を貸してもイイという咄があった。鴎外の賛成を得て話は着々進行しそうであったが、好書家ナンテものは蒐集には極めて熱心であっても、展覧会ナゾは気・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・ みんなは、その種子のいったことに賛成しました。しかしみんなが明るい世界を慕ったけれど、そのかいがなく、土の上に出ることを得たものは、ただ一つだけでありました。 こうして、一本の木の芽は、この世界に出たが、見るもの、聞くものに心を脅・・・ 小川未明 「明るき世界へ」
・・・「君たちのよんだ雑誌を田舎の子供へ、送ってやって、田舎の子供たちから、おかめどんぐりを送ってもらおうよ。」と、相談しました。「賛成、賛成!」 そのことを、三郎さんから、孝二くんにいってやると、すぐに返事がきて、田舎の子供たちも大・・・ 小川未明 「おかめどんぐり」
・・・おきみ婆さんに打ち明けると、泣いて賛成してくれました。私もおおげさだったが、おきみ婆さんもおおげさだった。そのころ大宝寺小学校に尋常四年生の花組に漆山文子という畳屋町から通っている子がいて、芸者の子らしく学校でも大きな藤の模様のついた浴衣を・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
出典:青空文庫