・・・すなわちまず三次元の空間の幾何学に一次元の時間を加えた運動学的の世界を構成し、さらにこれに質量あるいは力の観念を付加した力学的の世界像を構成し、そうして日常の生活をこれによって規定していることは事実である。もしも、これがなかったら、われわれ・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・力学における力、質量等のごとき、熱力学における温度エントロピーのごときこれなり。これらの概念と定義とが方則の云い表わしと切り離し難きはこのためなり。物理的自然現象を限定すべき条件等がすべてこれらの有限なる独立変数にて代表され得るや否やは別問・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・空間座標のほかに時を入れれば運動学が成立し、これに質量を入れて経験の結果を導入すれば力学ができる。これらの数学的の式における時間tが空間 x y z とほとんど同様に取り扱われうる事はミンコフスキーの四元空間 Welt の構成されるのを見て・・・ 寺田寅彦 「時の観念とエントロピーならびにプロバビリティ」
・・・人間が山から莫大な石塊を掘りだして、その中から微量な貴金属を採取して、残りのほとんど全質量を放棄しているのを見物して、現在の自分と同じようなことをいっているかもしれない。 こう考えてみると、道楽息子でもやはり学校へやった方がいいように思・・・ 寺田寅彦 「鉛をかじる虫」
・・・これは地球から見た時に太陽が天球のどこに来ているかという事を意味するだけの事であるから、太陽系に何か大きな質量の変化が起こるか、重力の方則が変わらない限り、予定のとおり進行してゆくはずである。 近ごろ、アインシュタインの研究によってニュ・・・ 寺田寅彦 「春六題」
・・・神輿の運動の変異量と、その質量や舁夫の人数、各人の筋力、体量等との間に或る量的関係を見いだすことは充分可能でありそうに思われる。 今、たとえば、次のような問題があったとする。一年三百六十五日間における日々の甲某百貨店の第X売り場における・・・ 寺田寅彦 「物質群として見た動物群」
・・・教科書などには質量を有するものとも書いてあるがこれは言葉を換えたに過ぎない。質量という考えを明らかにするにはどうしても力という考えを固めなければ工合が悪い。力という言葉の起原はつまり人間の筋力の感覚から発達して来たものに相違ない。そうしてこ・・・ 寺田寅彦 「物質とエネルギー」
・・・もっと新しい例を取れば質量に関する観念がある。質量は物体に含まるる実体の量だというように考えたは昔の事で、後にむしろ力の概念が先になって、物体に力が働いた時に受ける加速度を定める係数というふうに解釈した実証論者もある。電子説が勢いを得てから・・・ 寺田寅彦 「物理学と感覚」
・・・第一に重要なものは地球の全質量がこれに及ぼす重力である。すなわち普通にいわゆるペンの目方である。精しく云えばこの中には身辺にある可動性の器物や人間や一切のものの引力も加わっていてこれらが動けばそれだけの影響はあるはずである。ただこれらの影響・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・がなんだかわからなければその質量に相当するものも、弾力に相当するものもわかりようはない。従ってこれが数学的の取り扱いを許されるまでにはあまりに大きな空隙がある。 それにもかかわらず笑いの現象を生理的また心理的に考える時にこの力学の類型が・・・ 寺田寅彦 「笑い」
出典:青空文庫