・・・僕は僕の財産をすっかり賭ける。地面も、家作も、馬も、自働車も、一つ残らず賭けてしまう。その代り君はあの金貨のほかに、今まで君が勝った金をことごとく賭けるのだ。さあ、引き給え。」 私はこの刹那に欲が出ました。テエブルの上に積んである、山の・・・ 芥川竜之介 「魔術」
・・・僕はいのちをことし一年限りとして Le Pirate に僕の全部の運命を賭ける。乞食になるか、バイロンになるか。神われに五ペンスを与う。佐竹の陰謀なんて糞くらえだ!」ふいと声を落して、「君、起きろよ。雨戸をあけてやろう。もうすぐみんなここへ・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・しかも、全銭を賭ける遊戯である。滑稽にもそれからのち、さらにさらに生きながらえ、三度目の短篇集を出すことがあるならば、私はそれに、「審判」と名づけなければいけないようだ。すべての遊戯にインポテンスになった私には、全く生気を欠いた自叙伝をぼそ・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・「随分撃ってみてもよいが、何か賭けるか」と甚五郎が言うと、蜂谷が「今ここに持っている物をなんでも賭きょう」と言った。「よし、そんなら撃ってみる」と言って、甚五郎は信康の前に出て許しを請うた。信康は興ある事と思って、足軽に持たせていた鉄砲を取・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
出典:青空文庫