・・・この村に這入りこんだ博徒らの張っていた賭場をさして彼の足はしょう事なしに向いて行った。 よくこれほどあるもんだと思わせた長雨も一カ月ほど降り続いて漸く晴れた。一足飛びに夏が来た。何時の間に花が咲いて散ったのか、天気・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・こなたは三本木の松五郎、賭場の帰りの一杯機嫌、真暗な松並木をぶらぶらとやって参ります……」 話が興味の中心に近いて来ると、いつでも爺さんは突然調子を変え、思いもかけない無用なチャリを入れてそれをば聞手の群集から金を集める前提にするのであ・・・ 永井荷風 「伝通院」
・・・あいつの事だから、賭場でも始めるのじゃあるまいか。畜生。布団は軟かで好いが、厭な寝床だなあ。のようだ。そうだ。丸でだ。ああ。厭だ。」こんな事を思っているうちに、酔と疲れとが次第に意識を昏ましてしまった。 小川はふいと目を醒ました。電燈が・・・ 森鴎外 「鼠坂」
出典:青空文庫