・・・文献無代贈呈。』――『寄席芝居の背景は、約十枚でこと足ります。野面。塀外。海岸。川端。山中。宮前。貧家。座敷。洋館なぞで、これがどの狂言にでも使われます。だから床の間の掛物は年が年中朝日と鶴。警察、病院、事務所、応接室なぞは洋館の背景一つで・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・まず、その県のおもな新聞社へ署名して一部ずつ贈呈した。一朝めざむればわが名は世に高いそうな。彼には、一刻が百年千年のように思われた。五部十部と街じゅうの本屋にくばって歩いた。ビラを貼った。鶴を読め、鶴を読めと激しい語句をいっぱい刷り込んだ五・・・ 太宰治 「猿面冠者」
・・・メキシコの銀貨に穴をあけて赤い絹紐を通し、家族に於いて、その一週間もっとも功労のあったものに、之を贈呈するという案である。誰も、あまり欲しがらなかった。その勲章をもらったが最後、その一週間は、家に在るとき必ず胸に吊り下げていなければいけない・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・ ピオニェール分隊が再び行進曲によって去り、区婦人代表員がクラブへ記念品としてレーニンの肖像画を贈呈し終ると、議長が自席で立ち上った。 ――タワーリシチ、これで今夜私のところに記名表の来ているだけの演説は終りました。誰かもっと話した・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
出典:青空文庫