・・・女が五人に男が二人、〆めて七人、それで一番上の子供が十三ですから赤ん坊に至るまでズッと順よく並んでまあ体裁よく揃っております。それはどうでも宜しいがかように子供が多うございますから、時々いろいろの請求を受けます。跳ねる馬を買ってくれとか動く・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・まるで赤ん坊に説教するようだ。向は親切に言ってくれるんだから、へーへーと云っているより仕方がない。それはこの婆さんのようにベラベラしゃべる事はできない。挨拶などもただ咽喉の処へせり上って来た字を使ってほっと一息つくくらいの仕儀なんだから向う・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・ 日本では、囚人や社会主義者、無政府主義者を、地震に委せるんだね。地震で時の流れを押し止めるんだ。 ジャッガーノート! 赤ん坊の手を捻るのは、造作もねえこった。お前は一人前の大人だ。な、おまけに高利で貸した血の出るような金で、食・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
一 森 グスコーブドリは、イーハトーヴの大きな森のなかに生まれました。おとうさんは、グスコーナドリという名高い木こりで、どんな大きな木でも、まるで赤ん坊を寝かしつけるようにわけなく切ってしまう人でした。 ブドリにはネリという・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・十日前とくらべたらまるで赤ん坊と兵隊だ。やろうと思えばいつでもやれたんじゃないか、君。」 仲間もみんな立って来て「よかったぜ」とゴーシュに云いました。「いや、からだが丈夫だからこんなこともできるよ。普通の人なら死んでしまうからな。」・・・ 宮沢賢治 「セロ弾きのゴーシュ」
・・・ 驢馬が頭を下げてると荷物があんまり重過ぎないかと驢馬追いにたずねましたし家の中で赤ん坊があんまり泣いていると疱瘡の呪いを早くしないといけないとお母さんに教えました。 ところがそのころどうも規則の第一条を用いないものができてきました・・・ 宮沢賢治 「毒もみのすきな署長さん」
・・・ちょうど人間が胎児であったとき、その成長の過程で、ごく初期の胎生細胞はだんだん消滅して、すべて新しい細胞となって健康な赤ん坊として生れてくる。けれどももし何かの自然の間違いで、胎生細胞がいくつか新しくなりきらないで、人間のからだの中にのこっ・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・十月二十八日が咲枝さんの出産予定日でしたが、本人の予感では、十一月三日の夜らしいそうです、アナオソロシ。赤ん坊は男の子らしいそうです。母親が赤いものばかり欲しがる時には男の子だそうで、咲枝さんの蒲団と枕の赤さといったら少くとも私は微熱を発す・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・そればかりでなく、その間にはもう一人、人形のような顔をした赤ん坊が一人、母が髪を結っていたついそのうしろで、いつの間にやら息をしなくなっていたこともあった。 十五で死んだ弟は、私の恐怖であった。彼は何という敵意を私に対して抱いていたこと・・・ 宮本百合子 「青春」
・・・しかし卵から出たばかりの雛に穀物を啄ませ、胎を離れたばかりの赤ん坊を何にでも吸い附かせる生活の本能は、驚の目の主にも動く。娘は箸を鍋から引かなくなった。 男のすばしこい箸が肉の一切れを口に運ぶ隙に、娘の箸は突然手近い肉の一切れを挟んで口・・・ 森鴎外 「牛鍋」
出典:青空文庫