・・・ 更に、べつの皮肉屋の言うのには、「七月一日から煙草が値上りになるのは、たびたびの盗難による専売局の赤字を埋めるためだ」と。 それほど盗難が多いし、また闇商人が語っているように、横流しが多いのだ。そして、それが闇市場でまるで新聞・・・ 織田作之助 「大阪の憂鬱」
・・・とにかくそれに打勝って平気で鼻の孔から煙を出すようにならないと一人前になれないような気がしたことはたしかである。 煙草はたしか「極上国分」と赤字を粗末な木版で刷った紙袋入りの刻煙草であったが、勿論国分で刻んだのではなくて近所の煙草屋でき・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・その傘に大きく、たしか赤字で千金丹と書いてあったような気がする。小さな、今で言えばスーツケースのような格好をした黒塗りの革鞄に、これも赤く大きく千金丹と書いたのをさげていたと思う。せんだんの花のこぼれる南国の真夏の炎天の下を、こうした、当時・・・ 寺田寅彦 「物売りの声」
・・・政府が赤字やりくりのために思いついて、先ず五十円券をどっさり買わせ、それで第一段儲け、ついで五人のひとに百万円あてさせて、こんどは売れのこりに一本あったから四百万円だけはらって、それが何かの形でまた逆にかえって来て、金まわりを助けてゆく。こ・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・先日の新聞には、月給百五十円の人の家計は昨今五十円ずつ足を出して、それは赤字となっていることが報告されていた。私たちはみんな自分の実際でそのことは知っている。だから、それさえも半額ときくと、無関心でないのだと思う。 段々民間にもその方法・・・ 宮本百合子 「家庭と学生」
・・・各取引ごとに一パーセントとされているこの税も一年間の負担を通算すれば、各人四パーセントから五パーセントの支出となる。赤字家計は三千七百円ベースでは支えきれない。文化面で一冊の書籍は、これまでの定価になかった五パーセントの取引税を読者のポケッ・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・全従業員一万八百人を全部解雇、改めて新規定の四割減給で採用し、八百五十万円を浮かして、永年にたまった八百万円の赤字を一気にうめようと云う整理案である。 翌日の夕刊で、その整理案撤回を東交が要求して、罷業準備の指令を発したという記事をよん・・・ 宮本百合子 「電車の見えない電車通り」
・・・ ちょうど、赤字穴埋め策として立てた政府の官吏減俸案に反対し全国的官吏の未曾有の示威が行われている最中である。「文戦」の分裂があってから十数日だ。 日本の社会一般は歴史的意味を帯びた情勢だった。しかも、この第三回大会は自身独特の・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・ 家と云うのは、つい近くの、何々質店、信用、軽便、親切と、赤字で書いた大きなアーチ形の広告門をくぐって行った処に在った。 陰気な、表に向った窓もない二階建の小家の中からは、カンカン、カンカンと、何か金属細工をして居る小刻みな響が伝っ・・・ 宮本百合子 「又、家」
・・・モラトリアムをしかなければならないということは、とりも直さず、日本全国の正直な人民生計は赤字の破局で、貯金も使い果した危機を語っている。だからこそ、モラトリアムではなかろうか。そうだとすれば、どこの家の家計簿も、やすやすと世帯主三〇〇円、一・・・ 宮本百合子 「モラトリアム質疑」
出典:青空文庫