・・・「……ファシストの理論はなっていないようだが……これで赤松あたりが大分関係があるらしいね。案外な役割を買って出ているらしいですよ」 最近分裂して国家社会党を結成した赤松のことは関心をひき、自分は、「今度の事件にでもですか?」・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・門を入ったところには、それでも赤松が一本あるの。私は、ホラ先動坂の家へ咲枝[自注3]が持って来てたべた虎やの赤い色のお菓子、ああいう系統の色の紅梅がすきです。ほんとにどんな梅が入ったかしら。白いにしろ紅いにしろともかく梅が入ったかしら。――・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・高層建築が左右からそびえたって空も見えないレキシントン街を背景に、もんぺをぬいだ赤松常子参議員が、白足袋に草履の足もとも元気そうに、コート姿をはこんでいる。洋装の九人の婦人たちもそれぞれ元気そうにかたまって歩いていて、多忙にくみ立てられたニ・・・ 宮本百合子 「この三つのことば」
・・・ あの展覧会にあった赤松俊子さんの二つの大きな絵は、その努力と、新しいものと古いものとの歴史的な一種の錯覚の痙攣がみられました。新しくなることのために、どれほど、平凡で分りきったような現実追求がされなければならないかということを飛躍して・・・ 宮本百合子 「第一回日本アンデパンダン展批評」
・・・さてその縁故をもって赤松左兵衛督殿に仕え、天正九年千石を給わり候。十三年四月赤松殿阿波国を併せ領せられ候に及びて、景一は三百石を加増せられ、阿波郡代となり、同国渭津に住居いたし、慶長の初まで勤続いたし候。慶長五年七月赤松殿石田三成に荷担いた・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・と声をかけていたが、佐渡は構わぬので、とうとう赤松の幹のような脚にすがった。「船頭さん。これはどうしたことでございます。あのお嬢さま、若さまに別れて、生きてどこへ往かれましょう。奥さまも同じことでございます。これから何をたよりにお暮らしなさ・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
一 秋の雨がしとしとと松林の上に降り注いでいます。おりおり赤松の梢を揺り動かして行く風が消えるように通りすぎたあとには、――また田畑の色が豊かに黄ばんで来たのを有頂天になって喜んでいるらしいおしゃべりな雀が羽音をそろえて屋根や軒・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫