・・・一旦常に変った処置があると、誰の捌きかという詮議が起る。当主のお覚えめでたく、お側去らずに勤めている大目附役に、林外記というものがある。小才覚があるので、若殿様時代のお伽には相応していたが、物の大体を見ることにおいてはおよばぬところがあって・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・見る間に不動明王の前に燈明が点き、たちまち祈祷の声が起る。おおしく見えたがさすがは婦人,母は今さら途方にくれた。「なまじいに心せぬ体でなぐさめたのがおれの脱落よ。さてもあのまま鎌倉までもしは追うて出で行いたか。いかに武芸をひとわたりは心得た・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・そうして、われわれの文学の新しき問題たるべきことこそは、彼らに代って起るべき充分に文学を問題とした社会主義文学でなければならぬ。かかる社会主義的な文学は、当然、正統な弁証法的発展段階のもとに成長して来た、新感覚派文学の中から起るべき運命を持・・・ 横光利一 「新感覚派とコンミニズム文学」
・・・これから起こる事も恐らく予期をはずれた事が多いでしょう。私はいろいろな事を考えたあとでいつも「明日の事を思い煩うな」という聖語を思い出し、すべてを委せてしまう気になります。そうしてどんな事が起ころうとも勇ましく堪えようと決心します。 し・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫