・・・ 俺だちはお互に起床のときと、就寝のときと、飛行機が来たときと、元気なときと、クシャンとしたときと、そして「われ/\の旗日」のときに壁を打ち合った。――ブルジョワ階級が色んな「旗日」を持っているのと同様に、もはや今では日本のプロレタリア・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・たいてい私は八時前に起床するのだが、大隅君のお相手をして少し朝寝坊したのだ。大隅君は、なかなか起きない。十時頃、私は私の蒲団だけさきに畳む事にした。大隅君は、私のどたばた働く姿を寝ながら横目で見て、「君は、めっきり尻の軽い男になったな。・・・ 太宰治 「佳日」
・・・どうしてもわからなかったのであったが、それから二三十年たってその老人もなくなって後に、そのむすこが自分の家庭をもつようになって、そうして生活もやや安定して来たころのある年の正月元旦の朝清らかな心持ちで起床した瞬間からなんとなく腹の立つような・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ こんなふうであったから、従って夜はおそくまで、朝は早くから起床して勉強に取りかかるというような例はなく、それに私の家はごく平穏、円満な家庭であったから、いつでも勉強したいと思う時には、なんの障害もなく、静かに、悠乎と読書に親しむことが・・・ 寺田寅彦 「わが中学時代の勉強法」
・・・ 朝は起床と言って起こされる。 と怒鳴る。 ――ないものは涎を出せ――と、私は怒鳴りかえす。 糞、小便は、長さ五寸、幅二寸五分位の穴から、巌丈な花崗岩を透して、おかわに垂れる。 監獄で私達を保護するものは、私達を放・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・ 第二日 多忙な永山氏を煩すことだから、大奮発で七時起床。短時間の滞在だから永山氏に大体観るべきところの教示を受けたいと、昨日電話して置いたのだ。紹介状には、私共二人の名が連ねてある。ところが、Y、昨晩床に入る・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・ × 翌朝は日が出ると間なし起床だ。 いい天気で、朝靄が緩やかな畑の斜面や雑木林の彼方にかかっている。朝日のさす部落の梨の木の下で、昨夜集まった連中その他がわざわざ『文学新聞』のためだからといって集まり、写真をとった。〔・・・ 宮本百合子 「飛行機の下の村」
出典:青空文庫